英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.10.17,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(44本目)
今回は寄生虫疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Whitish-Yellow Tapeworm」です。掲載誌は卒後医学教育に先進的な変化をもたらした英国の非営利団体Fellowship of Postgraduate Medicine (FPM)で100年の歴史と伝統を誇る教育誌「Postgraduate Medical Journal (IF 2.078)」になります。なんとFPMの設立者はかの偉大な内科医 Sir William Osler 先生です。
今回acceptされたのは日本海裂頭条虫の症例です。日本海裂頭条虫の学名は「Diphyllobothrium nihonkaiense」であり、サクラマスやカラフトマスに寄生し、最終宿主の体内で10mにまで成長する寄生虫です。大きさの割には症状は軽微ですむことが多く、ヒトにおいては腹部膨満感や原因不明のビタミンB12欠乏などで発見されるケースが多いとされています。
近縁種のDiphyllobothrium latumとは永らく同一種と考えられてきましたが遺伝子的な差異があることが判明しており別種として認知されていますが見た目に区別はつきません。またアメリカやカナダ近海にはD. nihonkaienseは存在しないと考えられていましたが、2017年にその存在が確認され大きなニュースになりました (論文)。
いずれの裂頭条虫症でも駆虫薬であるプラジカンテルが有効です。またガストログラフィンの内服でも80%程度駆虫可能と報告されています。内視鏡的に除去する場合、駆虫薬を使用する場合にはともに頭部の排出を確認することが必要です。頭部の残存がある場合は再発する可能性があります。
今回強調したいのは裂頭条虫症は適切な調理をしていれば感染を予防できるという点です(マイナス20度で24時間以上、55℃以上で加熱5分以上)。本症例では患者は個人的に友人から頻回にサクラマスを手に入れており、冷凍処理や加熱調理することなく喫食していたことが原因でした。
A型肝炎、E型肝炎、カンピロバクター腸炎、サルモネラ腸炎、アニサキス症…いずれも生食が原因で生じる感染症ですが、本症はこれらの感染症に比べると症状は比較的穏やかで慢性的な経過をたどるため見逃されやすいと考えられます。渡航歴や旅行歴に加え、生食歴の聴取は非常に重要だということをあらためて思い出させる一例でした。
なお本症例は2018年8月末から9月にかけてドイツのWiesbadenで開催されました第17回欧州内科学会にてポスター発表をさせていただきました(学会終了後に主催学会誌に投稿しましたがRejectされました笑)。
以前の記事にも記載しましたが「学会発表」で終わり、というのは少々もったいないと考えます。発表したものをぜひぜひ「論文」として形にし、世に出すのが臨床医の使命ではないでしょうか。
100本まで残り56本です
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Posted by Hiroki Matsuura - 2018.10.01,Mon
Clinical PictureがAcceptされました(43本目)
今回は感染症に関連するCase ReportがAcceptされました。タイトルは「Escherichia coli Rib Osteomyelitis」です。掲載誌は英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of Medicine(IF 3.204)」になります。骨髄炎はほとんどの症例が細菌感染によるものであり、外傷に伴う直接感染や菌血症による散布性の血行性感染を要因とします。場所としては体内の中でも圧倒的に長管骨が多く、今回のCaseのような肋骨骨髄炎は統計的にも非常に珍しいとされています。いずれの骨髄炎においても、発熱や疼痛、体重減少など非特異的で漠然とした症状のみが継続するため診断に難渋する場合も少なくありません。多くの症例では菌血症や、骨折、膿瘍形成など重大な合併症を生じて初めて診断に至ります。治療としては早期診断と適切な抗菌薬投与、症例によっては迅速な外科的デブリードメントが必要です。
元記事のリンクはこちら(追記:2020年9月30日)
起炎菌としては黄色ブドウ球菌や結核菌、アクチノマイセス属菌などグラム陽性菌で起こる場合が大多数を占めるのですが、今回の症例ではグラム陰性桿菌として非常に一般的なE.coliによって生じていることも注目すべきポイントです。なおPubmedで検索したところ骨髄炎にグラム陰性菌が関与しているケースは非常に限定されており、ほとんどの症例はサルモネラ属菌によるものでした。そして検索しえた限り大腸菌による肋骨骨髄炎は本症例以外に報告はありません。非常に単純ですが珍しい症例なので形にできてよかったです。
100本まで残り57本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.08.08,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(42本目)
今回は直接経口抗凝固薬による合併症についてのClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Longitudinal sloughing mucosal casts: Dabigatran-induced Esophagitis」です。
掲載誌はなんと欧州循環器学会が発行するJournalで、循環器内科領域を扱う雑誌で最も高いImpact Factorを誇る「European Heart Journal(IF 23.425)」です!
DOACsは近年登場した直接経口凝固薬を指します。代表的なものにリバーロキサバン(イグザレルト)、エドキサバン(リクシアナ)、アビキサバン(エリキュース)、そして今回のClinical Pictureで取り上げたダビガトラン(プラザキサ)があります。
それぞれ特性があり腎機能低下症例、拮抗薬の存在、内服回数などで選択薬が異なります。ワーファリンとの最大の違いはPT.INRのモニタリングをしなくてよいという点です。ただしワーファリンに比べると値段が非常に高いという弱点があります。
さて今回の症例ですが、ダビガトランの副作用の一つとして消化器内科のDrの間では有名な食道炎を取り上げています。他のDOACsではこのような副作用が起こることはありません。要因として服薬時の飲水量や食道狭窄の有無などが検討されていますが、未だ機序は不明です。
ダビガトラン関連食道炎では中部から下部食道にかけて、白色膜様の付着物を伴う食道粘膜障害(Longitudinal sloughing mucosal casts)が特徴的な内視鏡所見となります。
ダビガトランを導入した場合に胸焼けや食思不振があらわれた際には本症を鑑別として忘れず、内視鏡検査を実施してください。
正直なところ、ここまでIFの高い専門誌にAcceptされるとは考えていませんでした。
ダメもとでのチャレンジも時には必要かもしれません。
今回投稿したEuropean Heart Journalについてはこちらをご参照ください
100本まで残り58本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.08.02,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(41本目)
今回は医学生なら誰でも名前を聞いたことがある有名な検査に関するClinical PictureがAcceptされました。しかも初の動画です。タイトルは「Tensilon Test: Myasthenia Gravis」です。重症筋無力症(Myasthenia Gravis)では神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体に対して抗体が形成されることで、脳からの指令が筋肉に伝わりづらくなり筋力低下が起こると考えられています。
大半の患者さんでこの抗アセチルコリン受容体抗体が認められますが、一部では筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体(抗Musk抗体)が原因となる場合もあるようです。
重症筋無力症では初発症状が「眼」というケースが非常に多いことが知られています。
眼瞼下垂、複視、午後にかけての症状増悪などがあった場合には本症を積極的に疑いましょう。
身体所見に関する検査としては冷凍したアイスパックを使用し3-5分眼瞼に押し当てて、症状の改善の有無を観察する「アイスパック試験」や、テンシロン(エドロフォニウム)を静注して全身状態の改善の有無を観察する「テンシロン試験」が有名です。医学生なら誰もが聞いたことがあるでしょうし、卒後しばらく経過した医師にとっても「あーそんなん昔試験でやったわ」と思い出すのではないでしょうか。
ポリクリの現場や神経内科をローテートしていれば特段珍しい検査でもないのですが、基本的に専門科でなければまずお目にかかることはないでしょう。
元記事のリンクはこちら(追記:2020年9月30日)
「テンシロン試験という字面は知っていても実際には見たことがない」という方には「百聞は一見に如かず」是非とも見ていただきたい動画になります。
掲載雑誌は英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of Medicine(IF 3.204)」です。(なお本例から2018年度のIFに変更、QJMは微増)
100本まで残り59本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.06.21,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(40本目)
今回は一般的な降圧薬による副作用に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルはそのまま「Calcium channel blocker-induced gingival overgrowth」です。「Calcium channel blocker-induced gingival overgrowth」 は直訳すると「カルシウム拮抗薬による歯肉腫脹」となります。カルシウム拮抗薬は降圧薬や冠攣縮性狭心症の治療薬として世界中で汎用されている薬剤になりますが、副作用についてはあまり論じられません。副作用として代表的なものは、顔面紅潮、頭痛、下腿浮腫、熱感、過度の降圧に伴う低血圧などが知られています。しかしこれら以外にも非常に少数ながら、機序が不明の歯肉腫脹を生じる場合があります。
歯肉腫脹を伴う薬剤として有名なものは他に、フェニトインやカルバマゼピンといった抗てんかん薬やシクロスポリンなど免疫抑制薬があります。
歯肉腫脹が生じた際には内服薬の変更や中止で改善するとされています。
また歯肉腫脹は歯面に歯垢が多いと重症化するケースが多いという報告があるため口腔ケアが重要です。
普段の診療で口腔内観察がつい疎かになりがちですが、口腔内や齲歯、舌、歯肉観察で思わぬ診断に繋がることがあります。日々の身体診察で忘れないように行いましょう。
掲載雑誌は日本内科学会が発行する英文誌「Internal Medicine(IF 0.815)」です。
100本まで残り60本です。
プロフィール
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Hiroki Matsuura
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