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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by - 2025.04.26,Sat
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.08.31,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(70本目)
今回は性感染症で生じた神経症状に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「The Great Imitator: Infectious 6th Nerve Palsy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

梅毒(Syphilis)は主に性交渉を介して感染する梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を原因とした性感染症であり、近年本邦において感染者が激増しています。15世紀末に突如としてあらわれ、抗菌薬が開発される以前の時代に猛威を奮いました。通説によると「コロンブスの探検隊がアメリカ大陸に上陸した際に、原住民女性との性交渉で現地の風土病に過ぎなかった梅毒に感染し、その後ヨーロッパに持ち帰ったことで世界的な流行を来した」とされています。

梅毒は全身に感染を引き起こし、病期によって多彩な症状を示すことから診断が難しい疾患です。Osler結節の報告者であり近代医学の父として名高いSir William Osler先生は、梅毒の示すその多彩な症状や身体所見から本症を「The Great Imitator(偽装の達人)」と評しました。また「He who knows syphilis knows medicine.(梅毒を知るもの医学を知る)」という梅毒診療の難しさを端的に表した金言を残されています。

さて今回Acceptされたのは若年男性が突然の外転神経麻痺を主訴に当院を受診、神経梅毒と診断された症例です。神経梅毒は梅毒のいずれの病期にも起こりえますが、通常の梅毒と同様に様々な症状を呈します。神経梅毒のpresentationとして視神経萎縮、内耳障害、脊髄癆、認知症などが代表的なものとして知られていますが、いずれも特異的な症状とは言えず他の疾患と見分けがつきにくいことからときに診断困難であり、発見・治療が遅れるケースがあとを絶ちません。

また一般的にHIV感染者は神経梅毒の罹患率が非HIV感染者に比べて2倍と高確率であるため、本症の患者ではHIV及びその他の性感染症の検索を行わなければなりません。

まず神経梅毒は無症候型、髄膜血管型、実質型に大きく分類されます。とくに無症候型は髄液異常を伴うだけであり、神経梅毒患者の10%程度を占めるとされています。今回の症例でも患者は外転神経麻痺の発症以前に特段の症状はありませんでした。性活動性の高い若年者における原因不明の神経症状では神経梅毒を鑑別に挙げる必要があるでしょう

本症例が比較的早期に診断がついた要因の1つとして疫学情報を多くの同僚医師と把握していたことが挙げられます。COVID-19が猛威を振るい始めたころ、私の勤務する岡山県における本症の「人口100万人当たりの報告数」は東京都、大阪府に次いで第3位という大変不名誉な状態にありました。このような背景から保健所主導での勉強会が開催されるなどした結果、県下の医師の中で梅毒診療に対する意識が高まったことも早期発見の要因として考えられるでしょう。

本症もまた「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」という側面があり、さらに発見が遅れれば遅れるほど感染を拡大させうる「公衆衛生上大きな問題となる感染症」です。

原因不明の神経症状を呈する若年者の診療では本症を鑑別疾患として挙げることを忘れないようにしましょう。

100本まで残り30本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.07.22,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(69本目)
今回は抗菌薬の副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Metronidazole induced Encephalopathy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

メトロニダゾールは主に嫌気性菌に対する抗菌薬として世界中で広く使用されています。嫌気性菌以外にもジアルジア症、トリコモナス症、アメーバ赤痢など様々な感染症に対して有効です。日常臨床では偽膜性腸炎(CD腸炎)や、Helicobacter Pyloriの除菌療法で使用することが多いのではないでしょうか。

メトロニダゾールを使用するうえで幾つか注意すべき点があります。

まずは薬剤相互作用があり、特にワーファリンの濃度を上昇させることが知られています。
また本剤使用中にアルコールを使用すると「ジスルフィラム様作用」を引き起こすため注意が必要です。「ジスルフィラム様作用」はアルコールの代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(acetaldehyde dehydrogenase:ALDH)の活性阻害により血中アセトアルデヒド濃度が上昇することで「悪酔い」を生じる現象ですから、本剤内服中はアルコールの摂取をしないように気を付けなければなりません。

前置きは長くなりましたが、今回ご紹介するClinical Pictureはさらにもう一つの注意点に関係します。メトロニダゾールを高用量でかつ長期間使用すると「脳症」を引き起こす危険があるのです。本症の発症機序は十分に解明されていませんが仮説として「メトロニダゾールがニューロンのRNAと選択的に結合しすることで、タンパク合成を抑制し軸索変性を生じる」あるいは「メトロニダゾールによってGABA変性やフリーラジカル発生が惹起され神経組織の損傷に至る」ことが原因と考えられています。今回の症例はCD腸炎に対してメトロニダゾールで治療を繰り返されていた高齢者が突然の意識障害と食思不振を呈したため、MRI検査を実施され本症と診断されたものになります。

メトロニダゾール脳症の症状は非特異的であり嘔気や嘔吐、回転性めまい、歩行障害、構音障害、傾眠、昏睡など多彩な神経症状を示します。画像検査では特にMRI(T2やFLAIR)で、小脳歯状核、中脳蓋部、脳梁膨大部に特徴的な左右対称の高吸収域が認められるため診断の一助となります。今回はこの典型的なMRI画像がAcceptされました。よってメトロニダゾールを使用している患者で非特異的な症状や神経症状が出現した場合には本症を鑑別の1つとして想起しMRI撮影を考慮しましょう。

本症の治療は薬剤の中止であり、基本的に予後は良好で薬剤中止後4-7日程度で回復するとされていますが、ときに不可逆的、致死的な症例も報告されるため注意が必要です。

メトロニダゾールは安価かつ有効性の高い非常に重要な抗菌薬であり、特に寄生虫や渡航感染症ではなくてはならない存在です。副反応や薬剤相互作用を十分に理解し日常診療に生かしてください。

100本まで残り31本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.05.23,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(68本目)
今回は新型コロナウイルス感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Tension Pneumoperitoneum attributable to COVID-19です。掲載雑誌はケース・ウェスタン・リザーブ大学が発行する熱帯医学・衛生専門誌として著名な「American Journal of Tropical Medicine and Hygiene(IF 2.126)」になります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢の海鮮市場周辺で流行が確認された新興感染症であり、その後初期対応のまずさなどから世界的な流行拡大(Pandemic)に至り、夥しい数の感染者と死者を出していることはご承知の通りでしょう。現在ではワクチン接種が欧米を中心に様々な国で進んでおり、徐々に正常化へ向かって動き始めています。

残念ながら本邦ではワクチン接種が遅々として進まない状況にあり、大阪府を中心とした近畿圏、沖縄県、北海道などでは流行の拡大が止まりません。さらに緊急事態宣言が新規に発令された岡山県、広島県の医療状況も危機的な状況にあります。私の勤務先である岡山市立市民病院は重点拠点病院として日々波のように押し寄せる多数のCOVID-19患者に対応し、ERでの緊急挿管も稀ではない状況となっています(記事掲載時)。

COVID-19は様々な合併症を引き起こすことが知られており、特に血液凝固能異常によって脳梗塞や肺塞栓を起こすことは医師にとって当たり前の事実になっています。その他にも小児例において川崎病類似の症候を示すケースなどが世界中から報告されています。

今回の症例は「Tension Pneumoperitoneum」、日本語で「緊張性気腹症」を生じたCOVID-19のケースです。緊張性気胸ではなく緊張性気の症例報告はPubMedで検索した限り、世界で初めてのようです。

気腹症は腸管穿孔や内視鏡検査による送気、スキューバダイビングや性行為で生じます。他にも気胸縦郭気腫などに続発することが知られています。腸管穿孔などを伴わず腹部症状を呈さないものに関しては特段の処置は必要とせず、注意深い経過観察で問題がない場合がほとんどです。実際にPubmedでもCOVID-19による無症候性の気腹症は症例報告が数例認められました。

一方で腹腔内圧が異常に高まることで静脈還流が阻害されるほどの気腹症は致死的な経過をたどる場合があり緊張性気腹症と呼ばれます。治療法は緊張性気胸と同様に、緊急脱気が必要です。今回の症例はCOVID-19患者が隔離病棟内で突然の腹部症状を訴え、異常な腹満血圧低下呼吸状態の悪化が起こり急変、CT撮影で著明な気腹を確認し18G針で速やかに脱気を行い救命に至りました。患者はその後軽快し自宅退院されています。隔離病棟内という非常に難しい特殊な状況下でありながら、多くの医療スタッフの尽力もあり非典型的なCOVID-19症例の急変事例に適切に対応出来ました。隔離病棟で働く他のスタッフにとっても印象的な症例であったので、Clinical Pictureとして形にできて素直に嬉しい限りです。

さて新型コロナウイルス感染症の流行はワクチン接種が完了するまで続きます。多くの医療機関が疲弊し一般外来や手術などにも大きな影響が出ていますが、ここが踏ん張りどころです。辛い日々が続きますが、皆様あと少しだけ一緒に頑張りましょう!

100本まで残り32本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.02.25,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(67本目)
今回は抗不整脈薬の長期使用に伴い生じる副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルはAmiodarone-induced pneumonitisです。掲載誌は英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of Medicine(IF 2.529)」です。

Amiodaroneは難治性、致死性の不整脈に古くから使用されている抗不整脈薬です。難治性の心房細動や心室細動にくわえ、低心機能や肥大型心筋症に伴う心房細動が適応になります。特殊な作用機序を有しており、治療抵抗性の不整脈に対して「替えのきかない」重要な薬剤であるという反面、非常に多くの副反応を有します。代表的な副反応には本症例のようなアミオダロン肺障害、甲状腺機能異常、肝障害、角膜障害、色素沈着などが挙げられます。アミオダロンは製剤100mgのうち37mgもヨウ素が含まれており、非常に脂溶性の高い構造をしていることにくわえ半減期が長いことから、長期間の使用で臓器への蓄積が起こりやすいのです。

これらの副反応のうちとりわけ危険性が高く、ときに致死性の経過を辿るのが本剤による肺障害です。既報によると年齢が60歳以上、投与期間が半年以上の群で高リスクとされています。また総投与量も重要であり101g超えると、肺障害のORは10倍に跳ね上がります。

本症例では新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、原因不明の肺炎として診断に至るまで長い時間を要しました。経過中にあらためて撮影されたCTを確認すると体型や生活習慣に不釣り合いなほどCT値の高い肝臓が目を引きました。これはアミオダロンの長期使用の影響でヨウ素が肝臓に沈着し、まるで造影剤のように肝臓の輝度を引き上げていたことが理由です。肝臓の輝度の高さからアミオダロンによる臓器障害を疑い、本剤を中止したところ肺障害は改善しました。

クスリはリスク」という言葉の意味を日々の診療で嫌というほど味わいますが、今回の症例はその中でも格別で、急速に進行する呼吸障害から一時は気管挿管まで至った非常に危険な一例でした。アミオダロンは特に副反応の種類が多いことから、私たち臨床医が常に注意しなければならない薬剤といえるでしょう。

100本まで残り33本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.02.23,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(66本目)
今回は終末大動脈に生じる中枢型の閉塞性動脈硬化症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Leriche syndrome」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.855)」です。

Leriche症候群は動脈硬化を主な要因とし、腹部大動脈下端から総腸骨動脈にかけて慢性の大動脈閉塞症を来たす疾患です。造影CTでは腎動脈以下の腹部大動脈本幹が描出されず、以下のような衝撃的な画像を示します。

元画像のリンクはこちら(追記:2021年9月7日)

本症の古典的な三徴は①間欠性跛行 ②下肢脈拍消失 ③勃起不全です。しかしながら本症では慢性的に発達した側副血行路により下肢や骨盤腔内臓器の血流が維持されており、派手な画像所見に比べると症状は軽微であったり無症候性であることも珍しくありません。そのため本症の診断には身体所見が診断の大きな手掛かりになりえます。間欠性跛行を示す疾患はほかにASOや腰部脊柱管狭窄症などが挙がりますが、Leriche症候群を忘れないようにしましょう。両下肢の動脈触知を丁寧に行い、脈拍だけではなく「左右差」を評価することも必要です。

前述のように本症の原因は動脈硬化に起因するものが多数を占め、冠動脈疾患や腎機能障害を併う場合があることから併存疾患の検索が重要です。特に虚血性心疾患の合併が目立つことから、心機能や冠動脈の評価を行いましょう。

足趾の血流障害が強い、あるいは間欠性跛行の増悪が著しい症例に対しては外科的にバイパス術を行います。また内服療法としてはシロスタゾールアスピリンなどの抗血小板薬が推奨されています。

100本まで残り34本です
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