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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.02.25,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(67本目)
今回は抗不整脈薬の長期使用に伴い生じる副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルはAmiodarone-induced pneumonitisです。掲載誌は英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of Medicine(IF 2.529)」です。

Amiodaroneは難治性、致死性の不整脈に古くから使用されている抗不整脈薬です。難治性の心房細動や心室細動にくわえ、低心機能や肥大型心筋症に伴う心房細動が適応になります。特殊な作用機序を有しており、治療抵抗性の不整脈に対して「替えのきかない」重要な薬剤であるという反面、非常に多くの副反応を有します。代表的な副反応には本症例のようなアミオダロン肺障害、甲状腺機能異常、肝障害、角膜障害、色素沈着などが挙げられます。アミオダロンは製剤100mgのうち37mgもヨウ素が含まれており、非常に脂溶性の高い構造をしていることにくわえ半減期が長いことから、長期間の使用で臓器への蓄積が起こりやすいのです。

これらの副反応のうちとりわけ危険性が高く、ときに致死性の経過を辿るのが本剤による肺障害です。既報によると年齢が60歳以上、投与期間が半年以上の群で高リスクとされています。また総投与量も重要であり101g超えると、肺障害のORは10倍に跳ね上がります。

本症例では新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、原因不明の肺炎として診断に至るまで長い時間を要しました。経過中にあらためて撮影されたCTを確認すると体型や生活習慣に不釣り合いなほどCT値の高い肝臓が目を引きました。これはアミオダロンの長期使用の影響でヨウ素が肝臓に沈着し、まるで造影剤のように肝臓の輝度を引き上げていたことが理由です。肝臓の輝度の高さからアミオダロンによる臓器障害を疑い、本剤を中止したところ肺障害は改善しました。

クスリはリスク」という言葉の意味を日々の診療で嫌というほど味わいますが、今回の症例はその中でも格別で、急速に進行する呼吸障害から一時は気管挿管まで至った非常に危険な一例でした。アミオダロンは特に副反応の種類が多いことから、私たち臨床医が常に注意しなければならない薬剤といえるでしょう。

100本まで残り33本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.02.23,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(66本目)
今回は終末大動脈に生じる中枢型の閉塞性動脈硬化症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Leriche syndrome」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.855)」です。

Leriche症候群は動脈硬化を主な要因とし、腹部大動脈下端から総腸骨動脈にかけて慢性の大動脈閉塞症を来たす疾患です。造影CTでは腎動脈以下の腹部大動脈本幹が描出されず、以下のような衝撃的な画像を示します。

元画像のリンクはこちら(追記:2021年9月7日)

本症の古典的な三徴は①間欠性跛行 ②下肢脈拍消失 ③勃起不全です。しかしながら本症では慢性的に発達した側副血行路により下肢や骨盤腔内臓器の血流が維持されており、派手な画像所見に比べると症状は軽微であったり無症候性であることも珍しくありません。そのため本症の診断には身体所見が診断の大きな手掛かりになりえます。間欠性跛行を示す疾患はほかにASOや腰部脊柱管狭窄症などが挙がりますが、Leriche症候群を忘れないようにしましょう。両下肢の動脈触知を丁寧に行い、脈拍だけではなく「左右差」を評価することも必要です。

前述のように本症の原因は動脈硬化に起因するものが多数を占め、冠動脈疾患や腎機能障害を併う場合があることから併存疾患の検索が重要です。特に虚血性心疾患の合併が目立つことから、心機能や冠動脈の評価を行いましょう。

足趾の血流障害が強い、あるいは間欠性跛行の増悪が著しい症例に対しては外科的にバイパス術を行います。また内服療法としてはシロスタゾールアスピリンなどの抗血小板薬が推奨されています。

100本まで残り34本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.01.09,Sat
Clinical PictureがAcceptされました(65本目)
今回は衛生状態の良好な日本国内では非常に珍しくなりましたが、東南アジアからオセアニアにかけて未だ猖獗を極める蚊媒介感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「A forgotten disease in Japan」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で、近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 4.329)」です。本誌は今回が初めての掲載になります。


今回Acceptされた症例は、岡山県北部在住の高齢女性が突然の高熱と意識障害を呈して複数の医療機関を受診、状態悪化後に当院に搬送されMRIの特徴的な画像所見と髄液PCRから日本脳炎と確定診断されたケースです。

日本脳炎 (Japanese Encephalitis)」を引き起こす日本脳炎ウイルスはデングウイルスやウエストナイルウイルスと同じフラビウイルス属に分類されます。本邦における感染源はブタであり、ウイルスを持つブタを吸血した蚊(コガタアカイエカ)がヒトを刺すことによって感染します。他のアジア諸国に比べて衛生状態が非常に良好な日本では本症の発症者数は年間数人から10名ほどで推移していますが、WHOによると東南アジアを中心に年間約70000人前後の感染者が発生し、20000人前後が死亡していると推計されています。

日本脳炎ウイルスに感染した場合、発症するのは0.1%から1%程度であり大多数の症例は無症候性に経過します。しかしながらいったん発症すると30%が死亡し、生存者の半数で深刻な後遺症が残るとされています。集学的な治療が発達した現代においても日本脳炎の全治率は約30%程度であり、この30年間でほとんど変化はありません。本症に対する特異的な治療法は開発されておらず対症療法が中心になるため何よりも予防が重要となります。

潜伏期間は6-16日間で、頭痛悪心、嘔吐、高熱、急激な意識障害、項部硬直、筋強直、振戦、不随意運動を呈します。本症例でもこれらの典型的な症状が出現していました。しかし日本脳炎は前述のように発症数が非常限られており、診療経験のあるDrもほとんどいないことも影響してか、当院に搬送されるまで複数の医療機関を経由したものの全く鑑別疾患として考えられていませんでした。「日本」と冠された疾患ではありますが「日本からは忘れさられつつある疾患」という意味を込めてタイトルを付けました。

ちなみにほぼ同時期に県内の全く別の地域から同様の症状を呈する高齢男性が搬送され、本症と確定診断しています。もしかしたら「日本脳炎」は見逃されているだけで実際はもっと多いのかもしれません。

本症のMRI画像所見はT2強調画像で視床や脳幹、基底核を中心とする対称的な高信号域を示します。CTではほとんど異常は認められませんが、上記のような所見が比較的早期からあらわれるためMRIが有用です。類似する画像はヘルペス脳炎抗NMDA受容体脳炎などですが、予防接種歴のない高齢者や東南アジアからの渡航者では本症を鑑別に挙げる必要があるでしょう。

前述のように日本脳炎の予防で最も重要なのは言うまでもなく「予防接種」です。現在使用されているワクチンは不活化製剤になりますが、2010年以前はマウス脳由来ワクチンが用いられていました。このマウス脳由来ワクチン接種と因果関係が否定できないADEM(急性散在性脳脊髄炎)の症例が報告されたことで、2005年から2009年まで厚労省から「定期予防接種における日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨差し控え」が行われました。そのため1996年生まれから2007年生まれの方は日本脳炎の予防接種を受けていない可能性があります。

またコガタアカイエカの存在しない北海道ではなんと2016年まで定期接種が実施されていませんでした屯田兵やゴールデンカムイの時代ならいざ知らず、交通手段の発達した現代において生涯を道内のみで過ごす道民がどれくらいいるでしょうか。はっきりいって行政側の怠慢としか思えません。北海道出身者が身近におられる方はぜひ、日本脳炎ワクチン接種歴があるか確認いただくようにお願いします。

なお本症は岡山県にて1924年(大正13年)に死者が443名を数える大規模な流行が起こりました。この流行をきっかけに研究が大きく前進し、三田村篤四郎(後の東京帝国大学病理学教授)を中心とする研究班によって本症はコガタアカイエカによる節足動物媒介性感染症と明らかにされました。岡山県は本症のランドマーク的な場所、といっても過言ではなさそうですし、そもそも流行地域であったことあらためて意識させられました。

100本まで残り35本です。

Posted by Hiroki Matsuura - 2020.12.22,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(64本目)
今回は甲状腺腫瘍と誤認されやすい比較的珍しい食道憩室に関連するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Mimicking a Thyroid Nodule: Killian-Jamieson Diverticulum」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 1.911)」です。本誌は今回が初めての掲載になります。

Killian-Jamieson憩室」は比較的珍しい食道憩室であり、知名度の低さからZenker憩室と誤認されている場合がほとんどです。そもそもKillian-Jamieson憩室は輪状咽頭筋と食道縦走筋間隙(Laimer三角部)から圧出する仮性憩室で、輪状咽頭筋から外側前方に飛び出すため甲状腺腫瘍と間違われやすいという特徴があります。

(出典:Ali Zakaria, Mohammed Barawi. Endoscopic treatment of Killian-Jamieson diverticulum using submucosal tunneling  diverticulotomy technique. VideoGIE. 2020; 5(11): 525-526.

特に甲状腺超音波検査では食物残渣などにより内部が高エコーに見える場合があり、腫瘍と誤認されて不必要な穿刺や外科手術に至ったという症例が過去に報告されています。

甲状腺腫瘍との超音波検査上の鑑別点は、嚥下で内部が変化することです。動的な変化および食道との連続性を観察することが重要であり、甲状腺超音波検査を実施するDrは注意すべき食道憩室かもしれません。

臨床上大きな問題になることは多くありませんが、しばしば遷延する咳嗽、頸部痛の原因になることがあり、症状が強い場合には外科的切除を実施します。本症例では頸部痛があるものの、症状は自制内であることから外来にて経過観察中です。

なお本症例は2020年12月3-5日に宮城県で開催されました第93回日本超音波医学会で発表(WEB)致しました。


100本まで残り36本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2020.12.06,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(63本目)
今回はダニ媒介感染症と比較的稀な合併症に関連するCase reportがAcceptされました。タイトルはJapanese Spotted Fever & Rickettsial pneumoniaです。掲載誌は英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of Medicine(IF 2.529)」です。

「Japanese spotted fever(日本紅斑熱)」は1984年徳島県阿南市で馬原文彦先生によって発見された紅斑熱群リケッチア感染症です。近年感染者数が急激に増加しており公衆衛生上大きな脅威となるダニ媒介疾患として知られています。一般的に紅斑熱群リケッチア感染症は紅斑、痂皮、肝障害を3徴としますが、血管内皮に感染し増殖するという特性から、全身のあらゆる臓器で臓器障害を引き起こします。症状の多くは非特異的であり、発熱や全身倦怠感、筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈するため、紅斑などを見落としたり(症例によっては紅斑が目立たない場合もあります)、流行地域で鑑別疾患から本症を落としてしまった場合には想起が難しく、重症化し致命的な経過をたどる危険性があります。

前述のように紅斑熱群リケッチア感染症は血管内皮に感染する特性から、全身のあらゆる臓器に感染を起こし臓器障害を来たしますが、肺も例外ではありません。日本紅斑熱の類縁疾患であるロッキー山紅斑熱Rickettsia rickettsi)、地中海紅斑熱Rickettsia conorii)、ツツガムシ病Orientia tsutsugamushi)などでは呼吸器症状が出現することは決して稀ではなく、CTや胸部レントゲン写真が様々な英文誌に登場しており「リケッチア肺炎」として報告されています。しかしながら、こと日本紅斑熱に限っては上述のような報告はPubmedを検索した限り、見つけることができなかったため報告する価値があると考えました。

紅斑熱群リケッチア感染症は「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」、など様々な点で臨床医泣かせの疾患です。特に本症例のような一見「普通の肺炎」に見えてしまう症例は非常に稀ではありますが、落とし穴になる可能性が高いため、通常の抗菌薬治療に反応が乏しい症例や原因不明の血小板減少を伴う症例では紅斑熱群リケッチア感染症を鑑別疾患として考える必要があるでしょう。

100本まで残り37本です。

日本紅斑熱についてはこれまでQJMに「Japanese spotted fever」、AJTMHに「Family cluster of Japanese Spotted Fever」がそれぞれ掲載されています。この機会にご参照ください。
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