英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.01,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(75本目)
さて今回は本邦を含むアジア諸国で報告例の多い寄生虫疾患「肺吸虫症」のClinical PictureがAcceptされました。個人的には非常に思い出深い症例です。タイトルは「Unusual cause of chronic cough and bloody phlegm with Atypical pulmonary CT findings」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で、近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。このJournalへのAcceptは「日本脳炎」「胃アニサキス症」に続いて3本目になりますが「日本」や「アジア」を思わせるものばかりAcceptされており、疫学の差異を最大限に有効活用しています。今回の症例はジビエを好んで食べる男性が長期間遷延する咳嗽と血痰で当院を受診されました。当初患者はジビエ食そのものを否定していましたが胸部CTで非典型的な所見を呈していたため、しつこく問診(尋問?)を繰り返したところ鹿肉を十分に加熱せずに食べていることが判明し、血清学的に診断に至った肺吸虫症の症例です。肺吸虫症のClinical Pictureは熊本医療センターの國友 耕太郎先生の症例(リンク)のような「虫卵が検出されるパターン」が王道なのですが、気管支鏡検査における虫卵の検出頻度は実は20%ほどしかありません。今回の症例の肝は経気道的でもなく血管走行とも一致しない「異質な浸潤影」が左肺小葉間裂を貫いて上葉と下葉に同時に分布していたことが血清学的検査を実施する契機になりました。経過中に虫卵は検出されませんでしたが、このような画像所見から肺吸虫症を強く疑いました。
肺吸虫症の原因となる宿主は清流に住むカニ類が多くを占めます。また鹿肉や猪肉を不十分に加熱せず喫食した場合にリスクがあります。本邦における肺吸虫症は戦後の公衆衛生の改善とともに1970年代までに大きく減少しましたが、最近では徐々に報告数が増加しています。ジビエ食の拡大が原因の一つと考えられていますが、本邦に在住する外国人でも発生件数が多いという報告があります。本邦に限らず外国人は移動した場所でも故郷と同様の食生活を続ける場合が多いとされ、肺吸虫に汚染されたカニを生食したことでFamily Clusterを起こしたという事例もあります。
Clinical Pictureは「王道」の美しいケースが多いですが、ときには泥臭く変化球で攻めてみましょう。手間はかかりますし、なかなかAcceptへの道筋が見えにくいという難点がありますが、臨床医にとって「落とし穴」が多い本症例のようなケースこそClinical Pictureに昇華させる意義があるのかもしれません。
100本まで残り25本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.07.19,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(74本目)
さて今回はClinical Pictureを愛する皆様が一度は通る道(?)である「胃アニサキス症」のClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Unusual cause of acute severe epigastric pain in a Japanese woman」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で、近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。今回Acceptされた症例は突然の腹痛で来院された女性が腹部CTを契機に胃アニサキス症と診断されたものになります。来院時の問診では生食歴についてしっかりとした確認が行われておらず、腹部CTで胃壁が全周性に浮腫を呈している特徴的な画像所見が得られたことがきっかけとなり、緊急で上部消化管内視鏡検査が行われ確定診断に至りました。
胃アニサキス症に付着するアニサキスは線虫の一種であり、本邦における食中毒の原因の首位を独走しています。サバやイカに寄生し、処理の不十分なそれらの魚介類を摂取することで感染します。アニサキス症は地域の食文化を原因・背景としている場合が殆どであり、伝統的に魚の生食(刺身、寿司など)を行う日本は当然リスクの高い国に分類されます。寿司のグローバル化に従って世界中で症例が増加しており、イタリアやスペイン、ドイツ、フランスでも報告があります。
胃アニサキス症は渕崎 宇一郎 先生(恵寿総合病院)のNEJM誌史上に残る伝説的なClinical Picture(リンク)を筆頭に数多くの有名誌に掲載されている本邦を代表する寄生虫疾患です。大腸アニサキス症や偽性腸閉塞など臨床医を悩ます症例もあるため、Clinical Pictureにうってつけの題材でもあります。今回の症例の注目すべき点は「腹部CTで全周性の胃壁浮腫」を診た際にどのような鑑別疾患が挙がるか、だと思います。胃蜂窩織炎などの鑑別を挙げつつ、全身状態や背景疾患によって鑑別を絞っていくお手本のようなケースでもあります。また胃アニサキス症の少ない欧米では臨床医がアニサキス症を想起できず、同様の所見を呈する患者でも「胃アニサキス症」は鑑別に挙がらないかもしれません。基本的に予後は良好な疾患ですが、寿司のグローバル化に伴いおそらく症例は確実に増加していることでしょう。地球の裏側で「Sushi」に苦しめられる患者さんを減らすためにも有用なCT所見だと思い、Clinical Pictureとして投稿しました。ちなみに胃アニサキス症は正露丸が効果的です。
100本まで残り26本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.02.22,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(73本目)
さて今回は「繰り返す鼻血」を引き起こす特徴的な常染色体優性遺伝疾患に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「A pale man with recurrent epistaxis」です。掲載誌は「The Royal College of Emergency Medicine」とBMJが主催する「Emergency Medicine Journal(IF 3.814)」になります。本誌には今回が初めてのAcceptになります。今回の症例は上部消化管出血を疑われた高齢男性の口腔粘膜と舌に特徴的な毛細血管拡張が存在したため、詳細な問診と併せて遺伝性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)と診断したケースになります。
Osler-Weber-Rendu病は常染色体優性遺伝形式をとります。また「繰り返す鼻出血」が特徴的であり成人症例の90%に認められると報告されています。身体所見としては全身の皮膚粘膜に大小様々な毛細血管拡張が出現しますが、今回の症例でも舌や口唇に毛細血管拡張が多発していたことから本症を疑い診断に至りました。毛細血管拡張は胃や十二指腸で認められることもあり、上部消化管出血の原因になりえます。貧血が進行したり、多発する場合にはAPC焼灼術などで対応します。他の臓器異常としては肺動静脈瘻、肝臓血管奇形、脳血管奇形などが代表的です。
鼻血を繰り返す患者さんでは本症を鑑別疾患の一つとして忘れず、粘膜所見を丁寧に確認しましょう。
100本まで残り27本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2022.09.21,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(72本目)
さて今回は甲状腺の針生検時に稀に生じる合併症に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Cracking Thyroid」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 2.378)」になります。甲状腺を針生検した際に、非常に稀ながら急速に甲状腺がびまん性に腫大し頚部圧迫感や疼痛、呼吸困難感を呈する場合があります。突然発症で患者の苦痛の訴えも強く、外見上も頚部腫脹が目立ちますが、大半の症例は冷却と安静で改善します。甲状腺を専門にするDrでは割と目にする合併症のようですが一般的な認知度は低くClinical PictureやCase reportもほとんど存在しません。
本症はドップラー超音波検査の画像が特徴的であり、血流の乏しい樹枝状の低エコー領域が穿刺部から甲状腺全体に拡がる様子がわかります。その様子がまるで「割れ目」のように観察されるのでCracking Thyroidと呼ばれるのです。甲状腺穿刺後の合併症としては動脈穿刺による大量出血との鑑別が重要であるため、甲状腺穿刺後に頚部腫脹を来たした患者では超音波検査で両者を鑑別する必要があるでしょう。
100本まで残り28本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2022.06.12,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(71本目)
ブログ更新をサボっている訳では決してありません。そして勿論引退していません。最近本当に通らないんです。ちなみに前回のAcceptから9か月経過してしまいました。さて今回は重症薬疹に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Periorbital swelling with crusted lesions: Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 1.911)」になります。
「Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms(DRESS)」は重症薬疹の一類型として重要な疾患概念です。奔放では「Drug induced hypersensitivity syndrome(DIHS)」と取り扱われる場合が多く、診断基準が異なります(RegiSCARスコアというDIHSの診断基準が本邦にて汎用されているため)。
本症は原因薬剤の曝露後、およそ2-6週間で顕在化し、広範な臓器障害を伴います。原因薬剤として代表的なものはカルバマゼピン、フェニトインなどの抗てんかん薬が知られています。またバンコマイシン、ミノサイクリン、ST合剤といった抗菌薬でも報告があるようです。本症の発症にはHHV-6の再活性化が関連しており、過去の報告によるとDRESSに関しては40-70%程度でHHV-6の再活性化が確認されています。また致死率は10%と油断のならない重篤な疾患なのです。さらにDRESSを発症した患者は、数年後に1型糖尿病や甲状腺機能低下症、SLEを発症することがあるため、これらの自己免疫性疾患についても経過中に注意が必要になります。
さて今回の眼瞼周囲の浮腫はDRESS/DIHSの早期診断に非常に効果的です。本症では発熱やリンパ節腫脹などの全身症状にくわえ、顔面や全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発しますが、眼瞼周囲に関しては浮腫により紅斑が消失します。そのため眼瞼周囲のみが「浮いているような」皮疹の分布になります。このような皮疹の分布があった際には本症を念頭に臓器障害の評価を行い、内服薬の確認・一刻も早い中止を検討しましょう。
100本まで残り29本です。
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