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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2022.09.21,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(72本目)
さて今回は甲状腺の針生検時に稀に生じる合併症に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Cracking Thyroid」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 2.378)」になります。

甲状腺を針生検した際に、非常に稀ながら急速に甲状腺がびまん性に腫大し頚部圧迫感疼痛呼吸困難感を呈する場合があります。突然発症で患者の苦痛の訴えも強く、外見上も頚部腫脹が目立ちますが、大半の症例は冷却と安静で改善します。甲状腺を専門にするDrでは割と目にする合併症のようですが一般的な認知度は低くClinical PictureやCase reportもほとんど存在しません。

本症はドップラー超音波検査の画像が特徴的であり、血流の乏しい樹枝状の低エコー領域が穿刺部から甲状腺全体に拡がる様子がわかります。その様子がまるで「割れ目」のように観察されるのでCracking Thyroidと呼ばれるのです。甲状腺穿刺後の合併症としては動脈穿刺による大量出血との鑑別が重要であるため、甲状腺穿刺後に頚部腫脹を来たした患者では超音波検査で両者を鑑別する必要があるでしょう。

100本まで残り28本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2022.06.12,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(71本目)
ブログ更新をサボっている訳では決してありません。そして勿論引退していません。最近本当に通らないんです。ちなみに前回のAcceptから9か月経過してしまいました。

さて今回は重症薬疹に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Periorbital swelling with crusted lesions: Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 1.911)」になります。

Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms(DRESS」は重症薬疹の一類型として重要な疾患概念です。奔放では「Drug induced hypersensitivity syndrome(DIHS」と取り扱われる場合が多く、診断基準が異なります(RegiSCARスコアというDIHSの診断基準が本邦にて汎用されているため)。

本症は原因薬剤の曝露後、およそ2-6週間で顕在化し、広範な臓器障害を伴います。原因薬剤として代表的なものはカルバマゼピン、フェニトインなどの抗てんかん薬が知られています。またバンコマイシン、ミノサイクリン、ST合剤といった抗菌薬でも報告があるようです。本症の発症にはHHV-6の再活性化が関連しており、過去の報告によるとDRESSに関しては40-70%程度でHHV-6の再活性化が確認されています。また致死率は10%と油断のならない重篤な疾患なのです。さらにDRESSを発症した患者は、数年後に1型糖尿病や甲状腺機能低下症、SLEを発症することがあるため、これらの自己免疫性疾患についても経過中に注意が必要になります。

さて今回の眼瞼周囲の浮腫はDRESS/DIHSの早期診断に非常に効果的です。本症では発熱やリンパ節腫脹などの全身症状にくわえ、顔面や全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発しますが、眼瞼周囲に関しては浮腫により紅斑が消失します。そのため眼瞼周囲のみが「浮いているような」皮疹の分布になります。このような皮疹の分布があった際には本症を念頭に臓器障害の評価を行い、内服薬の確認・一刻も早い中止を検討しましょう。

100本まで残り29本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.08.31,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(70本目)
今回は性感染症で生じた神経症状に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「The Great Imitator: Infectious 6th Nerve Palsy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

梅毒(Syphilis)は主に性交渉を介して感染する梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を原因とした性感染症であり、近年本邦において感染者が激増しています。15世紀末に突如としてあらわれ、抗菌薬が開発される以前の時代に猛威を奮いました。通説によると「コロンブスの探検隊がアメリカ大陸に上陸した際に、原住民女性との性交渉で現地の風土病に過ぎなかった梅毒に感染し、その後ヨーロッパに持ち帰ったことで世界的な流行を来した」とされています。

梅毒は全身に感染を引き起こし、病期によって多彩な症状を示すことから診断が難しい疾患です。Osler結節の報告者であり近代医学の父として名高いSir William Osler先生は、梅毒の示すその多彩な症状や身体所見から本症を「The Great Imitator(偽装の達人)」と評しました。また「He who knows syphilis knows medicine.(梅毒を知るもの医学を知る)」という梅毒診療の難しさを端的に表した金言を残されています。

さて今回Acceptされたのは若年男性が突然の外転神経麻痺を主訴に当院を受診、神経梅毒と診断された症例です。神経梅毒は梅毒のいずれの病期にも起こりえますが、通常の梅毒と同様に様々な症状を呈します。神経梅毒のpresentationとして視神経萎縮、内耳障害、脊髄癆、認知症などが代表的なものとして知られていますが、いずれも特異的な症状とは言えず他の疾患と見分けがつきにくいことからときに診断困難であり、発見・治療が遅れるケースがあとを絶ちません。

また一般的にHIV感染者は神経梅毒の罹患率が非HIV感染者に比べて2倍と高確率であるため、本症の患者ではHIV及びその他の性感染症の検索を行わなければなりません。

まず神経梅毒は無症候型、髄膜血管型、実質型に大きく分類されます。とくに無症候型は髄液異常を伴うだけであり、神経梅毒患者の10%程度を占めるとされています。今回の症例でも患者は外転神経麻痺の発症以前に特段の症状はありませんでした。性活動性の高い若年者における原因不明の神経症状では神経梅毒を鑑別に挙げる必要があるでしょう

本症例が比較的早期に診断がついた要因の1つとして疫学情報を多くの同僚医師と把握していたことが挙げられます。COVID-19が猛威を振るい始めたころ、私の勤務する岡山県における本症の「人口100万人当たりの報告数」は東京都、大阪府に次いで第3位という大変不名誉な状態にありました。このような背景から保健所主導での勉強会が開催されるなどした結果、県下の医師の中で梅毒診療に対する意識が高まったことも早期発見の要因として考えられるでしょう。

本症もまた「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」という側面があり、さらに発見が遅れれば遅れるほど感染を拡大させうる「公衆衛生上大きな問題となる感染症」です。

原因不明の神経症状を呈する若年者の診療では本症を鑑別疾患として挙げることを忘れないようにしましょう。

100本まで残り30本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.07.22,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(69本目)
今回は抗菌薬の副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Metronidazole induced Encephalopathy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

メトロニダゾールは主に嫌気性菌に対する抗菌薬として世界中で広く使用されています。嫌気性菌以外にもジアルジア症、トリコモナス症、アメーバ赤痢など様々な感染症に対して有効です。日常臨床では偽膜性腸炎(CD腸炎)や、Helicobacter Pyloriの除菌療法で使用することが多いのではないでしょうか。

メトロニダゾールを使用するうえで幾つか注意すべき点があります。

まずは薬剤相互作用があり、特にワーファリンの濃度を上昇させることが知られています。
また本剤使用中にアルコールを使用すると「ジスルフィラム様作用」を引き起こすため注意が必要です。「ジスルフィラム様作用」はアルコールの代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(acetaldehyde dehydrogenase:ALDH)の活性阻害により血中アセトアルデヒド濃度が上昇することで「悪酔い」を生じる現象ですから、本剤内服中はアルコールの摂取をしないように気を付けなければなりません。

前置きは長くなりましたが、今回ご紹介するClinical Pictureはさらにもう一つの注意点に関係します。メトロニダゾールを高用量でかつ長期間使用すると「脳症」を引き起こす危険があるのです。本症の発症機序は十分に解明されていませんが仮説として「メトロニダゾールがニューロンのRNAと選択的に結合しすることで、タンパク合成を抑制し軸索変性を生じる」あるいは「メトロニダゾールによってGABA変性やフリーラジカル発生が惹起され神経組織の損傷に至る」ことが原因と考えられています。今回の症例はCD腸炎に対してメトロニダゾールで治療を繰り返されていた高齢者が突然の意識障害と食思不振を呈したため、MRI検査を実施され本症と診断されたものになります。

メトロニダゾール脳症の症状は非特異的であり嘔気や嘔吐、回転性めまい、歩行障害、構音障害、傾眠、昏睡など多彩な神経症状を示します。画像検査では特にMRI(T2やFLAIR)で、小脳歯状核、中脳蓋部、脳梁膨大部に特徴的な左右対称の高吸収域が認められるため診断の一助となります。今回はこの典型的なMRI画像がAcceptされました。よってメトロニダゾールを使用している患者で非特異的な症状や神経症状が出現した場合には本症を鑑別の1つとして想起しMRI撮影を考慮しましょう。

本症の治療は薬剤の中止であり、基本的に予後は良好で薬剤中止後4-7日程度で回復するとされていますが、ときに不可逆的、致死的な症例も報告されるため注意が必要です。

メトロニダゾールは安価かつ有効性の高い非常に重要な抗菌薬であり、特に寄生虫や渡航感染症ではなくてはならない存在です。副反応や薬剤相互作用を十分に理解し日常診療に生かしてください。

100本まで残り31本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.05.23,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(68本目)
今回は新型コロナウイルス感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Tension Pneumoperitoneum attributable to COVID-19です。掲載雑誌はケース・ウェスタン・リザーブ大学が発行する熱帯医学・衛生専門誌として著名な「American Journal of Tropical Medicine and Hygiene(IF 2.126)」になります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢の海鮮市場周辺で流行が確認された新興感染症であり、その後初期対応のまずさなどから世界的な流行拡大(Pandemic)に至り、夥しい数の感染者と死者を出していることはご承知の通りでしょう。現在ではワクチン接種が欧米を中心に様々な国で進んでおり、徐々に正常化へ向かって動き始めています。

残念ながら本邦ではワクチン接種が遅々として進まない状況にあり、大阪府を中心とした近畿圏、沖縄県、北海道などでは流行の拡大が止まりません。さらに緊急事態宣言が新規に発令された岡山県、広島県の医療状況も危機的な状況にあります。私の勤務先である岡山市立市民病院は重点拠点病院として日々波のように押し寄せる多数のCOVID-19患者に対応し、ERでの緊急挿管も稀ではない状況となっています(記事掲載時)。

COVID-19は様々な合併症を引き起こすことが知られており、特に血液凝固能異常によって脳梗塞や肺塞栓を起こすことは医師にとって当たり前の事実になっています。その他にも小児例において川崎病類似の症候を示すケースなどが世界中から報告されています。

今回の症例は「Tension Pneumoperitoneum」、日本語で「緊張性気腹症」を生じたCOVID-19のケースです。緊張性気胸ではなく緊張性気の症例報告はPubMedで検索した限り、世界で初めてのようです。

気腹症は腸管穿孔や内視鏡検査による送気、スキューバダイビングや性行為で生じます。他にも気胸縦郭気腫などに続発することが知られています。腸管穿孔などを伴わず腹部症状を呈さないものに関しては特段の処置は必要とせず、注意深い経過観察で問題がない場合がほとんどです。実際にPubmedでもCOVID-19による無症候性の気腹症は症例報告が数例認められました。

一方で腹腔内圧が異常に高まることで静脈還流が阻害されるほどの気腹症は致死的な経過をたどる場合があり緊張性気腹症と呼ばれます。治療法は緊張性気胸と同様に、緊急脱気が必要です。今回の症例はCOVID-19患者が隔離病棟内で突然の腹部症状を訴え、異常な腹満血圧低下呼吸状態の悪化が起こり急変、CT撮影で著明な気腹を確認し18G針で速やかに脱気を行い救命に至りました。患者はその後軽快し自宅退院されています。隔離病棟内という非常に難しい特殊な状況下でありながら、多くの医療スタッフの尽力もあり非典型的なCOVID-19症例の急変事例に適切に対応出来ました。隔離病棟で働く他のスタッフにとっても印象的な症例であったので、Clinical Pictureとして形にできて素直に嬉しい限りです。

さて新型コロナウイルス感染症の流行はワクチン接種が完了するまで続きます。多くの医療機関が疲弊し一般外来や手術などにも大きな影響が出ていますが、ここが踏ん張りどころです。辛い日々が続きますが、皆様あと少しだけ一緒に頑張りましょう!

100本まで残り32本です。
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