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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.13,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(77本目)
今までの不振が嘘のように今月はAcceptラッシュです。
今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するClinical PictureがAcceptされました。かなり珍しい症例ですが、初診外来でSnap Diagnosisし、迅速に治療につなげることが出来た印象深いケースになります。タイトルは「Young woman with Red eyes and Shock」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。

今回の症例ですが、生来健康であった若年女性が1週間遷延する感冒症状(発熱、全身倦怠感、嘔気、嘔吐、水様性下痢)のため救急外来を受診されました。身体所見では眼球結膜の充血顔面の紅斑全身性の浮腫があり、血圧低下頻呼吸から敗血症を疑わせる非常にSickな全身状態でした。また採血検査では著明な炎症反応高値(CRP、フェリチン)がありました。当初はToxic shock syndrome(TSS)などを疑いましたが近医で既に抗菌薬が処方されており、さらに頚部リンパ節腫脹などと併せて鑑別疾患を考えると「川崎病」が脳裏をよぎりました

またちょうど第7波の真っただ中でしたので、あらためて経過を確認すると患者はおよそ6週間前にCOVID-19に罹患していました。これらの病歴を併せて、COVID-19罹患後に発症する「成人多系統炎症症候群:Multisystem-Inflammatory Syndrome in Adult(MIS-A)」と診断し、集中治療室でヴェノグロブリンステロイド大量投与を行いました。

MIS-AはCOVID-19に感染してから数週間後(2-6週間後)に生じる川崎病様の重篤な合併症です。21歳以上の成人に起きるものとそれ以下の年齢で起きるものでMIS-AとMIS-C(Child)に区別されており、米国疾病管理予防センター(CDC)から診断基準が示されています(日経メディカルの特集記事に分かりやすい和訳があったので紹介します)

※MIS-Aの診断基準(引用記事より一部改変し紹介)※
21歳以上に起こった入院が必要な重症疾患
② 入院中または過去12週間以内に行われた、核酸検査、抗原検査、抗体検査によって、現在または過去のSARS-CoV-2感染が確認されている
③ 肺以外の1つ以上の臓器系に重度の機能障害が認められる(低血圧またはショック心機能障害、動脈または静脈の血栓症塞栓症急性肝障害
④ 重度の炎症を示す検査結果(例えばCRP、フェリチン、Dダイマー、IL-6などの上昇
重症呼吸器疾患は認められない(炎症と臓器機能不全が、単に組織の低酸素症に起因する可能性がある患者を除外する)
(出典:日経メディカル

今回の症例では太字で示した通り、診断基準をしっかり満たしました。
MIS-Aは重症患者が多く、半数でショックを呈し、25%で人工呼吸管理が必要になり、7%が死亡に至ったという報告があります。幸い本症例では持続性の循環不全や多臓器不全には至らず患者は速やかに回復に至りました。

今後もCOVID-19の流行は繰り返され、医師であればCOVID-19診療から逃れることは出来ません。MIS-Aは珍しい合併症とはいえ、今後誰しもが遭遇しえます。早期発見と早期治療が重要な疾患になりますので「川崎病」様の重篤な患者を診た際にはMIS-Aを鑑別疾患の一つとして想起しましょう。

100本まで残り23本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.02,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(76本目)
連日のAcceptになります。今回は原因不明の大量腹水貯留に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Urinary Ascites: The great mimic」です。掲載誌はAsian Pacific Association of Gastroenterology (APAGE)の機関誌「Journal of Gastroenterology and Hepatology(IF 4.369)」です。本誌は初めてのAcceptになりました。

今回の症例は重度の統合失調症でほとんど疎通の取れない方が突然の発熱腹部膨満のため当院に搬送されたケースになります。患者はこれまで腎機能障害を指摘されたことはなく、統合失調症以外に目立った既往歴はありませんでした。直近の血液検査ではCrが4台まで急激に上昇しており、ER受診時には発熱と併せて敗血症による臓器障害を疑われていました。しかしCTでは腹腔内をすべて満たす大量の腹水が存在していましたが原因は指摘しえず、さらに敗血症を起こしている割には全身状態は良好でCr以外大きな血液検査異常もなかったため、患者は違和感に溢れた病歴を呈していました。そのため本症例のCr上昇は腎機能に起因するものではなく、腹水に起因するもの(膀胱が何らかの原因で破裂し腹腔内に漏れ出た尿が腹膜で再吸収された結果、血清Crが上昇した)ではないかと考えました。その目でCTを見返すと膀胱の上部に腹腔内と交通を認める部位があり、予想通り膀胱破裂に伴う腹水尿と確定診断しました。その後緊急手術で膀胱壁の修復が行われたことにより、患者は無事回復に向かいました(文章では理解しづらいのですが、Clinical Pictureでは一目で理解可能です。後日画像をこちらにも紹介します)。

膀胱破裂は様々な原因で起きえます。その中でも外傷出産医療行為に伴うものが多いとされています。例えば医原性のものでは術中の損傷だけでなく、放射線照射後に膀胱壁の菲薄化が生じピンホールの瘻孔から尿が腹腔内に繰り返し漏れ出てきていたため原因の特定に非常に難渋したという症例報告があります。

それを踏まえて今回のClinical Pictureでは「大量腹水の原因として膀胱破裂に伴う腹水尿を鑑別に挙げなければならない」ということを強調しています。膀胱破裂はたしかに泌尿器科の疾患になりますが、腹水貯留の患者を日常診療で多数目にする消化器内科のDrにこそ知ってほしいという意味合いで、このClinical Pictureは消化器内科系の雑誌に投稿しました。繰り返しになりますが皆さんも原因不明の大量腹水を診たときには「膀胱破裂」を鑑別の一つとして忘れないようにしましょう。

100本まで残り24本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.01,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(75本目)
さて今回は本邦を含むアジア諸国で報告例の多い寄生虫疾患「肺吸虫症」のClinical PictureがAcceptされました。個人的には非常に思い出深い症例です。タイトルは「Unusual cause of chronic cough and bloody phlegm with Atypical pulmonary CT findings」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で、近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。このJournalへのAcceptは「日本脳炎」「胃アニサキス症」に続いて3本目になりますが「日本」や「アジア」を思わせるものばかりAcceptされており、疫学の差異を最大限に有効活用しています。

今回の症例はジビエを好んで食べる男性が長期間遷延する咳嗽と血痰で当院を受診されました。当初患者はジビエ食そのものを否定していましたが胸部CTで非典型的な所見を呈していたため、しつこく問診(尋問?)を繰り返したところ鹿肉を十分に加熱せずに食べていることが判明し、血清学的に診断に至った肺吸虫症の症例です。肺吸虫症のClinical Pictureは熊本医療センターの國友 耕太郎先生の症例(リンク)のような「虫卵が検出されるパターン」が王道なのですが、気管支鏡検査における虫卵の検出頻度は実は20%ほどしかありません。今回の症例の肝は経気道的でもなく血管走行とも一致しない「異質な浸潤影」が左肺小葉間裂を貫いて上葉と下葉に同時に分布していたことが血清学的検査を実施する契機になりました。経過中に虫卵は検出されませんでしたが、このような画像所見から肺吸虫症を強く疑いました。

肺吸虫症の原因となる宿主は清流に住むカニ類が多くを占めます。また鹿肉猪肉を不十分に加熱せず喫食した場合にリスクがあります。本邦における肺吸虫症は戦後の公衆衛生の改善とともに1970年代までに大きく減少しましたが、最近では徐々に報告数が増加しています。ジビエ食の拡大が原因の一つと考えられていますが、本邦に在住する外国人でも発生件数が多いという報告があります。本邦に限らず外国人は移動した場所でも故郷と同様の食生活を続ける場合が多いとされ、肺吸虫に汚染されたカニを生食したことでFamily Clusterを起こしたという事例もあります。

Clinical Pictureは「王道」の美しいケースが多いですが、ときには泥臭く変化球で攻めてみましょう。手間はかかりますし、なかなかAcceptへの道筋が見えにくいという難点がありますが、臨床医にとって「落とし穴」が多い本症例のようなケースこそClinical Pictureに昇華させる意義があるのかもしれません。

100本まで残り25本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.07.19,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(74本目)
さて今回はClinical Pictureを愛する皆様が一度は通る道(?)である「胃アニサキス症」のClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Unusual cause of acute severe epigastric pain in a Japanese woman」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で、近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。

今回Acceptされた症例は突然の腹痛で来院された女性が腹部CTを契機に胃アニサキス症と診断されたものになります。来院時の問診では生食歴についてしっかりとした確認が行われておらず、腹部CTで胃壁が全周性に浮腫を呈している特徴的な画像所見が得られたことがきっかけとなり、緊急で上部消化管内視鏡検査が行われ確定診断に至りました。

胃アニサキス症に付着するアニサキスは線虫の一種であり、本邦における食中毒の原因の首位を独走しています。サバやイカに寄生し、処理の不十分なそれらの魚介類を摂取することで感染します。アニサキス症は地域の食文化を原因・背景としている場合が殆どであり、伝統的に魚の生食(刺身、寿司など)を行う日本は当然リスクの高い国に分類されます。寿司のグローバル化に従って世界中で症例が増加しており、イタリアやスペイン、ドイツ、フランスでも報告があります。

胃アニサキス症は渕崎 宇一郎 先生(恵寿総合病院)のNEJM誌史上に残る伝説的なClinical Picture(リンク)を筆頭に数多くの有名誌に掲載されている本邦を代表する寄生虫疾患です。大腸アニサキス症や偽性腸閉塞など臨床医を悩ます症例もあるため、Clinical Pictureにうってつけの題材でもあります。今回の症例の注目すべき点は「腹部CTで全周性の胃壁浮腫」を診た際にどのような鑑別疾患が挙がるか、だと思います。胃蜂窩織炎などの鑑別を挙げつつ、全身状態や背景疾患によって鑑別を絞っていくお手本のようなケースでもあります。また胃アニサキス症の少ない欧米では臨床医がアニサキス症を想起できず、同様の所見を呈する患者でも「胃アニサキス症」は鑑別に挙がらないかもしれません。基本的に予後は良好な疾患ですが、寿司のグローバル化に伴いおそらく症例は確実に増加していることでしょう。地球の裏側で「Sushi」に苦しめられる患者さんを減らすためにも有用なCT所見だと思い、Clinical Pictureとして投稿しました。ちなみに胃アニサキス症は正露丸が効果的です。

100本まで残り26本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.02.22,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(73本目)
さて今回は「繰り返す鼻血」を引き起こす特徴的な常染色体優性遺伝疾患に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「A pale man with recurrent epistaxis」です。掲載誌は「The Royal College of Emergency Medicine」とBMJが主催する「Emergency Medicine Journal(IF 3.814)」になります。本誌には今回が初めてのAcceptになります。

今回の症例は上部消化管出血を疑われた高齢男性の口腔粘膜と舌に特徴的な毛細血管拡張が存在したため、詳細な問診と併せて遺伝性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)と診断したケースになります。

Osler-Weber-Rendu病は常染色体優性遺伝形式をとります。また「繰り返す鼻出血」が特徴的であり成人症例の90%に認められると報告されています。身体所見としては全身の皮膚粘膜に大小様々な毛細血管拡張が出現しますが、今回の症例でも舌や口唇に毛細血管拡張が多発していたことから本症を疑い診断に至りました。毛細血管拡張は胃や十二指腸で認められることもあり、上部消化管出血の原因になりえます。貧血が進行したり、多発する場合にはAPC焼灼術などで対応します。他の臓器異常としては肺動静脈瘻、肝臓血管奇形、脳血管奇形などが代表的です。

鼻血を繰り返す患者さんでは本症を鑑別疾患の一つとして忘れず、粘膜所見を丁寧に確認しましょう。

100本まで残り27本です。
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