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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2020.01.31,Fri
 Clinical PictureがAcceptされました(57本目)
約3か月間にわたって全くAcceptがないまま時間が経過し、いつの間にか年が明けてしまいました。今年も細々と続けて参りますので何卒よろしくお願い致します。

さて今回は診断困難例が多い肺外結核症例に関するClinical Pictureがacceptされました。タイトルは「Starry sky in the abdomen」直訳すると「お腹の中の星空」で無駄にお洒落な感じになっています。掲載誌はLancetの関連誌として2016年に創刊されたばかりですが消化器領域では上位から6番目のIFを誇る「Lancet Gastroenterology and Hepatology (IF 12.856)」であり今回が初めての掲載となります。

今回の症例は若年のベトナム人女性が慢性の腹痛で受診され、結核性腹膜炎と診断されたケースです。
結核性腹膜炎は20-40歳代の比較的若年者に多く、わずかに女性が多いことが知られています。結核性腹膜炎は全結核患者の0.5%程度に認められる非常に稀な疾患ですが、確定診断が極めて難しい疾患としても知られています。

本症の診断を困難とする要因としては特異的な検査が存在しないことが挙げられます。一般的に結核性腹膜炎では腹水を採取し結核菌に対するPCRや培養検査を行いますが、感度が非常に低く特に後者では15-30%程度でしか陽性になりません。診断に関しては腹水中のADAを測定することが有用ですが、ADAの結果がはっきりしない場合や腹水を安全に穿刺できない場合には、腹腔鏡を用いた直視下での観察と生検が実施されます。本症例ではまさに腹水穿刺路が確保できず、臍部から腹腔鏡を挿入し、直視下での観察にくわえ腹膜と大網を切除し病理検査を行いました。その際に採取された腹水は滲出性かつADAは高値を示しましたが、培養や結核菌PCRはやはり陰性でした。しかし大網の切除標本から顕微鏡下にラングハンス巨細胞が確認されたことにくわえ、腹腔鏡下で粟粒状の結節が腹腔内に広く観察されたことから結核性腹膜炎と診断し、抗結核薬にて治療を実施しました。

本症の治療は通常の結核治療と同様であり、一般的にはREF+PZA+INH+EBの4剤併用を2か月、さらにREF+INHの2剤併用を4か月(計6か月)実施します。詳しくは成書を参照ください。
なお本症例では患者の帰国が間近に迫った状態での診断であったため、ベトナムでの受け入れ医療機関の選定や英語での紹介状の記載など問題が山積みでしたが、Socialな問題の解決を通して「疾患以外」でも多くのことを学ばせていただいた印象深い1例です。

肝硬変のない若年者の原因不明の腹水を診た際には結核性腹膜炎を鑑別の1つとして忘れないようにしましょう。

100本まで残り43本です
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Posted by Hiroki Matsuura - 2019.10.18,Fri
Clinical PictureがAcceptされました(56本目)
今回は急激な浸透圧変化によって生じる脱髄疾患についてのClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Mexican hat sign」です。掲載誌はまたまたまた卒後医学教育に先進的な変化をもたらした英国の非営利団体Fellowship of Postgraduate Medicine (FPM)が発行している100年の歴史と伝統を誇る教育誌「Postgraduate Medical Journal (IF 1.946)」です。

浸透圧脱髄症候群(橋中心性髄鞘崩壊)とは慢性的な低栄養状態やアルコール中毒、尿崩症や悪性腫瘍などに伴った長期的な低Na血症の急激な補正により脱髄を生じる疾患です。橋底部に病変を生じるのが典型例であり以前は橋中心性髄鞘崩壊(CPM:Central Pontine Myelinolisys )と呼ばれていましたが、橋以外に病変が生じる場合もあり、現在では浸透圧脱髄症候群(ODS:Osmotic Demyelination Syndrome)と呼ばれるようになっています。

上述した通り本症は低Na血症の補正速度が速すぎることが発症原因であり、Naの補正速度を10mEq/L/day以内に抑える必要があるとされていますが、8mEq/L/dayでも発症したという報告もあるようです。また慢性的な低Na血症だけでなく、高Na血症の補正でも本症を発症したという症例報告も散見されます

ODSの症状としては意識障害、嚥下障害、構音障害、傾眠、無動、無言、弛緩性四肢麻痺などが進行性に生じ、重度のものでは閉じ込め症候群に陥る場合もあるようです。

本症ではMRIにてDWIやT2強調像で橋底部中心に、まるでメキシコ人の被る帽子のような特徴的な高信号域(Mexican hat sign)を呈します。病歴や症状と併せて本症が疑わしい場合にはMRIが確定診断に有用です。ただし発症直後ではMRIの画像所見は偽陰性になるので注意が必要となります(3-4週間程度)。

治療に関してはControversyな点、施設間での違いも大きいため言及しませんが、本症についてはやはり予防が重要な疾患になります。低Na血症を診た際には「もしかして慢性的な低Na血症ではないか」と頭の片隅に置きながら、病歴を注意深くとり補正を開始することが大切でしょう。

100本まで残り44本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2019.10.17,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(55本目)
今回は若年女性に苛烈な右上腹部痛を生じる性感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Right upper quadrant pain with positive Murphy's sign in 19-year-old woman」です。

掲載誌はまたしても米国消化器病学会が発行するJournalで、消化器内科領域を扱う雑誌で最も高いImpact Factorを誇る「Gastroenterology(IF 19.233)」です。

今回は突然発症の激しい右上腹部痛を呈した若年女性が問診などから性感染症が疑われ、造影CTで特徴的な画像所見を指摘、Fitz-Hugh-Curtis症候群(FHCs)と診断された症例になります。

そもそもFHCsとは骨盤内炎症性疾患(PID)が上行性に腹膜や肝被膜に波及し肝周囲炎をきたしたもので、原因菌の大多数をChlamydia trachomatisが、次いでNeisseria gonorrhoeaeが占めます。症状として急性発症の激しい右上腹部痛を来たすことから急性胆嚢炎など消化器疾患との鑑別が必要であり、症状の強さから婦人科外来でなくしばしばERに搬送される場合があります。

FHCsは慢性期に移行すると慢性的な上腹部痛などで症状が目立たなくなります。より発見は難しくなることは想像に難くないですが、特にChlamydia感染では不妊や異所性妊娠などを来たす可能性が高まるため、早期発見と治療が将来の妊孕性の維持という点で重要でしょう。

今回投稿した画像にも示されているのですが、画像所見として造影CTが非常に有用であり、早期相において特徴的な肝被膜の濃染像を呈します。

腹痛=消化器疾患と短絡的に考えたくなる症例もありますが、性的活動期にあたる若年女性で右上腹部痛を伴う症例では、性行動についての注意深い問診と性感染症の検索を忘れないようにしましょう。近年では梅毒が激増(岡山県は不名誉ながら全国第3位)しており、公衆衛生上にも大きな問題になっているため、性感染症を診断した場合には他の病原体感染を合併している可能性を考慮し精査を進めてください。そしてパートナーの受診を促し、ピンポン感染を食い止めることも必要です。

100本まで残り45本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2019.09.25,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(54本目)
今回は腹部血管の狭窄を伴う非常に珍しい疾患についてのClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Intermittent severe epigastric pain and abdominal bruit varying with respiration」です。

掲載誌は米国消化器病学会が発行するJournalで、消化器内科領域を扱う雑誌で最も高いImpact Factorを誇る「Gastroenterology(IF 19.233)」です。

今回の症例は、およそ3年間にわたって徐々に増悪し、間歇的に生じる耐え難い腹部疝痛のため岡山市立市民病院総合内科を受診された患者です。私の外来に来られるまで、県内外の少なくとも7つの総合病院を受診されましたが原因の特定には至っていませんでした。

腹痛の性状は内臓痛であるものの、明らかな腹膜刺激徴候はなく、体位による疼痛の変化も認められませんでした。しかしながら腹部聴診で呼吸性に変動する血管雑音が聴取されたためDoppler超音波検査を実施し、腹腔動脈の流速を計測しました。呼気と吸気で流速に大きな変動(呼気で流速UP)が認められたことから造影CTを撮影したところ、腹腔動脈起始部に狭窄が生じ、狭窄部以降の動脈径の拡大が認められたため正中弓状靭帯圧迫症候群(Celiac Artery Compression Syndrome:CACS)と診断しました。CACSと診断後、腹腔鏡下で正中弓状靭帯切離術を実施したところ、患者の腹痛および腹部の血管雑音は完全に消失しました。

CACSは非常に珍しい疾患であり、医師の間でも認知されているとはいいがたい疾患です。男性に比べて女性に多く、一般的には20-40歳代に好発するとされています。有病率は判明していないものの解剖学的異常として正中弓状靭帯による腹腔動脈狭窄は0.2-6%程度存在するという報告もあります。しかしながら多くの症例では側副血行路の発達などで無症状です。

そもそも正中弓状靭帯とはなにか?正中弓状靭帯は左横隔膜と右横隔膜を椎体前面で結ぶ非常に堅強な構造物です。これが何らかの原因で伸長、肥厚した場合に腹腔動脈を圧排し本症を引き起こします。

症状として特異的なもの存在せず、嘔気、嘔吐、下痢、食後の腹痛、間歇的な心窩部痛や胸やけなどがあらわれます。呼吸性変動を伴う腹部の血管雑音に関しても、決して特異的な身体所見ではありません。実際外来診療をしているとこれらの血管雑音は痩せ型の女性患者の多くで聴取が可能です。ただし鑑別疾患の一つとしてCACSを想起することは忘れてはなりません。

今回は運よくCACSを特定し、治療を完遂することができました。しかしCACS自体の認知度の低さや非特異的な症状から、本症が鑑別疾患に挙がらず不定愁訴として潜在的に見逃されている可能性は否定できません。実際に本症例でも患者さんは精神科の受診を多数の医師に勧められており医療不信に陥っていました。

原因不明の腹部症状が遷延している若年女性に呼吸性変動を伴う血管雑音を聴取した際にはCACSを鑑別疾患の一つとして忘れないようにしましょう。

なお本症例は2019年9月14-15日に佐賀県で開催された第19回日本病院総合診療医学会でポスター発表致しました。

100本まで残り46本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2019.08.05,Mon
Clinical PictureがAcceptされました(53本目)
今回は渡航感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Dengue Rash: white islands in a sea of red」です。掲載誌はまたまたまた卒後医学教育に先進的な変化をもたらした英国の非営利団体Fellowship of Postgraduate Medicine (FPM)が発行している100年の歴史と伝統を誇る教育誌「Postgraduate Medical Journal (IF 1.946)」になります。

今回の症例は36歳の女性でタイプーケットを観光後に発熱をきたし、帰国後の血液検査で著明な血小板低下好中球減少が認められた患者です。デング熱を疑い、DENV迅速診断キットが陽性となったため保健所にてPCRを実施いただきデング熱と確定診断されました。経過中にHtの上昇と脈圧の減少があったことからCVC確保のうえ大量輸液を実施し、慎重に経過を観察しました。幸いにも重症型に移行することなく改善し退院されています。

そもそもデング熱とは蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)によって媒介され、本邦では近年マラリアを抜いて渡航感染症の報告数の首位をひた走るウイルス感染症です。詳細は成書に譲りますが、潜伏期間は3-14日間、感染者の80%は無症状で経過するものの、発症すると症状として眼痛、頭痛、筋肉痛、発熱、関節痛、嘔気、嘔吐などがあらわれ、ときに重症型へ移行し死亡する可能性があります。本症には4種類のウイルス型があり、以前に違う型に感染した既往のある患者が違う型にあらたに感染した場合には重症化の頻度が上昇します。

実は2019年になってからというもの、お世辞にも国際都市とは言えない岡山の地で、既に3例もの診断を確定させています。保健所への依頼打率も10割です。要するにデング熱はもはや Common Diseaseであり、「私には関係ない」と思っていると非常に危険、といわざるをえません。

本邦では戦後の1945年、復員者により大規模なアウトブレイクが起こりましたが、幸いなこと以降土着することなく、2014年の代々木公園デング熱事件が起こるまでは国内感染事例は皆無でした。しかし代々木公園におけるデング熱の伝播・流行というのは、感染者の血液を土着の蚊が吸血することで感染・伝播のサイクルが容易に起こりうることを示しています。海外渡航歴を聞き逃し、デング熱という鑑別が挙がらなければ周囲の公衆衛生上、大きな問題になりえます。

タイ、ベトナム、フィリピンなどデング熱の流行地域からの入国者が増える中で、本症は今後も警戒すべき感染症です。ちなみに現在バングラデシュでは非常に大規模な流行が起きておりWHOによる支援が行われていますが、当院における2例目はこのバングラデシュからの渡航者でした。

今回の写真はデング熱の解熱後、2-3日後に認められる典型的な皮疹を取り上げています。この皮疹を「White islands in a sea of red (赤い海に浮かぶ白い島々)」と呼び、渡航感染症を診られる感染症医の間では非常に有名な所見なのですが、意外なほどPubmedでは引っかかりませんでした。

解熱後にあらわれる非常に特徴的な皮膚所見ですので、これを診た場合には仮にそれまで鑑別としてデング熱が挙がっていなかったとしても(そんなことは稀でしょうが)、デング熱の解熱期を想起しなければなりません。万が一、その患者に渡航歴がなかったとしたら…。

東京五輪を控え、外国人がますます増加する中、そのような事態に陥らないためにもインバウンド立国が進む本邦で我々内科医が果たす役割は殊更大きく、地域の公衆衛生を守るために重要です。

100本まで残り47本です。
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