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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2020.11.02,Mon
Clinical PictureがAcceptされました(62本目)
今回は感染症と大腸癌に関連するCase ReportがAcceptされました。タイトルはLactobacillus Bacteremia: A diagnostic clue of Rectal Cancerです。掲載誌は長らくAcceptから遠ざかっていた英国内科学会の発行する内科系雑誌「Quarterly Journal of MedicineIF 2.529)」です。

今回の症例は突然の発熱と悪寒戦慄で搬送されてきた高齢女性の血液培養からLactobacillus属菌が検出され、悪性腫瘍による消化管粘膜の破綻から菌血症を生じたと考えてCSを実施し、未指摘の直腸癌を診断したという症例です。

一般的にはプロバイオティクスとして腸内環境を正常に保つ働きのあるLactobacillus属菌ですが、Pubmedで検索すると意外にも菌血症や肝膿瘍、細菌性髄膜炎などを生じた症例報告が出てきます。
既報によるとLactobacillus属菌による菌血症のリスク群は事前の入院歴、中心静脈栄養使用、ステロイドユーザー、糖尿病患者、悪性腫瘍(特に白血病)、広域抗菌薬使用、臓器移植術後、HIV感染がありました。それにくわえて腸管粘膜の破綻が生じている虚血性腸炎IBD、そして消化管悪性腫瘍では本種による菌血症が増加するとされています。

大腸癌に関係する菌血症の菌種としてはStreptococcus bovisClostridium septicumが非常に有名です。しかし菌血症としては決して一般的でないLactobacillus属菌が検出された場合にも消化管悪性腫瘍の検索を忘れないようにしましょう。

100本まで残り38本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2020.09.26,Sat
Clinical PictureがAcceptされました(61本目)
今回は非常に珍しい遺伝性の血液疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Hemolytic crisis of Hereditary Spherocytosis」です。掲載誌は卒後医学教育に先進的な変化をもたらした英国の非営利団体Fellowship of Postgraduate Medicine (FPM)が発行している100年の歴史と伝統を誇る教育誌「Postgraduate Medical Journal (IF 1.911)」です。

本症例では感冒症状があらわれた後に眼瞼結膜の貧血眼球結膜の黄染が出現し救急外来を受診された成人男性のケースです。精査の結果、遺伝性球状赤血球症が判明し、伝染性紅斑に伴う溶血性貧血と診断されました。画像検査でも年齢に不相応な立派な?胆嚢結石、そして脾機能亢進に伴う脾腫が確認できました。

遺伝性球状赤血球症(Hereditary spherocytosis)は本邦において最も頻度の高い遺伝性溶血性貧血であり、多くの症例で常染色体優性遺伝形式を呈します。これは赤血球の膜表面に存在する膜蛋白に異常が生じるもので、赤血球の変形能の低下により溶血が起こりやすくなるのが原因となります。

そして感染などをきっかけに溶血発作が進む場合があり、特にパルボウイルスB19感染による伝染性紅斑では無形成発作を引き起こし、本症例のように重篤化することも珍しくありません。

一般的に遺伝性球状赤血球症は血に伴う黄疸、胆嚢結石、慢性貧血などを伴うことが多く、精査中に偶然発見されることもあるようです。

貧血が重篤な場合には脾摘術が考慮されますが、脾摘後は莢膜を有する細菌感染症への抵抗力が著しく低下することから、肺炎球菌ワクチンなどの接種を忘れないようにしましょう。

100本まで残り39本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2020.08.21,Fri
Clinical PictureがAcceptされました(60本目)
今回は珍しい胆道系疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Porcelain Gallbladder」です。掲載誌は米国消化器病学会が発行するJournalでGastroenterologyの姉妹誌である「Clinical Gastroenterology and Hepatology (IF 8.549)」です(なお本症例より2020年度のIFに変更)。本誌は今回が初めてのacceptになります。

さて「Porcelain Gallbladder」は直訳すると「陶器様胆嚢」となります。陶器様胆嚢は比較的稀な病態で、慢性胆嚢炎の一種として知られています。全周性に石灰化を来たしており、音響陰影のため超音波検査では内腔が描出されません。

陶器様胆嚢は以前から「発癌と関係があるか否か」が議論されている疾患です。画像診断技術の発達していなかった1950年代には20%程度の症例が胆嚢癌と関連するされ、当時は確定診断がつき次第、積極的な外科的切除が勧められました。しかしその後の研究で、以前よりも癌化の確率が低いと考えられるようになっています。

なお全周性の陶器様胆嚢は内腔の粘膜が石灰化しているため発癌に至らないのではないかという仮説が一部の研究者の間で唱えられていますが真相は果たして…。

陶器様胆嚢は前述した通り比較的稀な疾患であり、他疾患の精査中に偶然画像検査で指摘される場合があります。基本的に経過観察でかまいませんが、ごく一部の症例では癌化する可能性が否定できないため、少しだけ注意しましょう。

100本まで残り40本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2020.07.21,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(59本目)
約4か月ぶりのAcceptになりました。コロナ禍のせいにはしたくないですが、Clinical Picture投稿はかなり滞っています。しかし「With コロナ」の時代は対面式の診察方法が制限され、より直感的な診断力を磨く必要があると感じています。雌伏のときこそClinical Pictureで大いに学びましょう。さて前置きが長くなりましたが、今回は内分泌疾患に関わるClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Milphosis: Hypothyroidism」です。

掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.855)」です。

甲状腺機能低下症では様々な身体所見があらわれることが知られていますが、代表的なものに非圧痕性浮腫、徐脈、嗄声などが挙げられます。そして脱毛も頻度が高く認められる所見の一つです。よく知られた脱毛所見として「眉毛の外側3分の1が抜ける所見」「Hertoghe徴候」と呼ばれ、甲状腺機能低下症アトピー性皮膚炎で特徴的です。

今回取り上げたClinical Pictureは眉毛ではなく、睫毛の脱落です。「睫毛のみの脱落」「Milphosis」と呼ばれ、甲状腺機能低下症帯状疱疹、ハンセン病、尋常性乾癬、皮膚悪性腫瘍、薬剤性(ヘパリン、ACEi)などで観察される場合があります。ちなみに「眉毛と睫毛がともに脱落した状態」「Madarosis」と呼ばれ区別されます。

甲状腺機能低下症では毛髪の休止期脱落が高頻度に生じるため脱毛に繋がります。なお毛根の休止期が早期に終了することで毛髪が細く脆弱になった結果、休止期脱落が生じるとされています。

下腿浮腫と倦怠感を主訴に初診外来に来院された本症例ですが、顔を観察した際に「Milphosis」に気付いたことで比較的早期に甲状腺機能低下症という診断に至りました。

特に女性では睫毛や眉毛は化粧で修飾され、元の状態とは程遠い場合が多々あります。甲状腺機能低下症を疑う病歴のある患者さんが来られた際には、一度眉毛や睫毛の状態を確認してみましょう。

100本まで残り41本です
Posted by Hiroki Matsuura - 2020.02.11,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(58本目)
今回は繰り返す腹痛と臍部感染を生じる先天疾患に関連したClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Chronic abdominal pain with pus discharge from the umbilicus」です。

掲載誌は米国消化器病学会が発行するJournalで、消化器内科領域を扱う雑誌で最も高いImpact Factorを誇る「Gastroenterology(IF 19.233)」です。
 
今回取り上げたのは間歇的な腹痛と臍部からの排膿を主訴に当院へ来院された尿膜管遺残(Urachal remnant)の症例です。そもそも尿膜管とは胎児期に臍と膀胱とを結んでおり、胎児の尿を母体に流すための通り道となっています。通常出生とともに尿膜管は閉鎖し、成長に伴って消退していくのですが、本症ではその名の通り尿膜管が残存し細菌感染を起こすことで、本症例のような腹痛や臍部の発赤、排膿を生じます。

遺残した尿膜管は上記のように感染を繰り返すことにくわえ、非常に稀ながら悪性腫瘍の発生母地となりえます。そのため本症は外科的に尿膜管の切除が行われます。特に近年では腹腔鏡を用いた摘除術が広く実施されており、従来に比べてより低侵襲で治療が可能です。

尿膜管遺残の分類は成書に譲りますが、本症の診断には造影CTやMRIなどが使用され、遺残物や膿瘍形成などを評価し治療を進めます。
臍部での繰り返す感染や膿汁排泄が認められる患者では尿膜管遺残を鑑別の1つに挙げましょう。

100本まで残り42本です
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