英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.05.23,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(68本目)
今回は新型コロナウイルス感染症に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Tension Pneumoperitoneum attributable to COVID-19」です。掲載雑誌はケース・ウェスタン・リザーブ大学が発行する熱帯医学・衛生専門誌として著名な「American Journal of Tropical Medicine and Hygiene(IF 2.126)」になります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢の海鮮市場周辺で流行が確認された新興感染症であり、その後初期対応のまずさなどから世界的な流行拡大(Pandemic)に至り、夥しい数の感染者と死者を出していることはご承知の通りでしょう。現在ではワクチン接種が欧米を中心に様々な国で進んでおり、徐々に正常化へ向かって動き始めています。
残念ながら本邦ではワクチン接種が遅々として進まない状況にあり、大阪府を中心とした近畿圏、沖縄県、北海道などでは流行の拡大が止まりません。さらに緊急事態宣言が新規に発令された岡山県、広島県の医療状況も危機的な状況にあります。私の勤務先である岡山市立市民病院は重点拠点病院として日々波のように押し寄せる多数のCOVID-19患者に対応し、ERでの緊急挿管も稀ではない状況となっています(記事掲載時)。
COVID-19は様々な合併症を引き起こすことが知られており、特に血液凝固能異常によって脳梗塞や肺塞栓を起こすことは医師にとって当たり前の事実になっています。その他にも小児例において川崎病類似の症候を示すケースなどが世界中から報告されています。
今回の症例は「Tension Pneumoperitoneum」、日本語で「緊張性気腹症」を生じたCOVID-19のケースです。緊張性気胸ではなく緊張性気「腹」の症例報告はPubMedで検索した限り、世界で初めてのようです。
気腹症は腸管穿孔や内視鏡検査による送気、スキューバダイビングや性行為で生じます。他にも気胸や縦郭気腫などに続発することが知られています。腸管穿孔などを伴わず腹部症状を呈さないものに関しては特段の処置は必要とせず、注意深い経過観察で問題がない場合がほとんどです。実際にPubmedでもCOVID-19による無症候性の気腹症は症例報告が数例認められました。
一方で腹腔内圧が異常に高まることで静脈還流が阻害されるほどの気腹症は致死的な経過をたどる場合があり緊張性気腹症と呼ばれます。治療法は緊張性気胸と同様に、緊急脱気が必要です。今回の症例はCOVID-19患者が隔離病棟内で突然の腹部症状を訴え、異常な腹満と血圧低下、呼吸状態の悪化が起こり急変、CT撮影で著明な気腹を確認し18G針で速やかに脱気を行い救命に至りました。患者はその後軽快し自宅退院されています。隔離病棟内という非常に難しい特殊な状況下でありながら、多くの医療スタッフの尽力もあり非典型的なCOVID-19症例の急変事例に適切に対応出来ました。隔離病棟で働く他のスタッフにとっても印象的な症例であったので、Clinical Pictureとして形にできて素直に嬉しい限りです。
さて新型コロナウイルス感染症の流行はワクチン接種が完了するまで続きます。多くの医療機関が疲弊し一般外来や手術などにも大きな影響が出ていますが、ここが踏ん張りどころです。辛い日々が続きますが、皆様あと少しだけ一緒に頑張りましょう!
100本まで残り32本です。
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