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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.07.22,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(69本目)
今回は抗菌薬の副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Metronidazole induced Encephalopathy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

メトロニダゾールは主に嫌気性菌に対する抗菌薬として世界中で広く使用されています。嫌気性菌以外にもジアルジア症、トリコモナス症、アメーバ赤痢など様々な感染症に対して有効です。日常臨床では偽膜性腸炎(CD腸炎)や、Helicobacter Pyloriの除菌療法で使用することが多いのではないでしょうか。

メトロニダゾールを使用するうえで幾つか注意すべき点があります。

まずは薬剤相互作用があり、特にワーファリンの濃度を上昇させることが知られています。
また本剤使用中にアルコールを使用すると「ジスルフィラム様作用」を引き起こすため注意が必要です。「ジスルフィラム様作用」はアルコールの代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(acetaldehyde dehydrogenase:ALDH)の活性阻害により血中アセトアルデヒド濃度が上昇することで「悪酔い」を生じる現象ですから、本剤内服中はアルコールの摂取をしないように気を付けなければなりません。

前置きは長くなりましたが、今回ご紹介するClinical Pictureはさらにもう一つの注意点に関係します。メトロニダゾールを高用量でかつ長期間使用すると「脳症」を引き起こす危険があるのです。本症の発症機序は十分に解明されていませんが仮説として「メトロニダゾールがニューロンのRNAと選択的に結合しすることで、タンパク合成を抑制し軸索変性を生じる」あるいは「メトロニダゾールによってGABA変性やフリーラジカル発生が惹起され神経組織の損傷に至る」ことが原因と考えられています。今回の症例はCD腸炎に対してメトロニダゾールで治療を繰り返されていた高齢者が突然の意識障害と食思不振を呈したため、MRI検査を実施され本症と診断されたものになります。

メトロニダゾール脳症の症状は非特異的であり嘔気や嘔吐、回転性めまい、歩行障害、構音障害、傾眠、昏睡など多彩な神経症状を示します。画像検査では特にMRI(T2やFLAIR)で、小脳歯状核、中脳蓋部、脳梁膨大部に特徴的な左右対称の高吸収域が認められるため診断の一助となります。今回はこの典型的なMRI画像がAcceptされました。よってメトロニダゾールを使用している患者で非特異的な症状や神経症状が出現した場合には本症を鑑別の1つとして想起しMRI撮影を考慮しましょう。

本症の治療は薬剤の中止であり、基本的に予後は良好で薬剤中止後4-7日程度で回復するとされていますが、ときに不可逆的、致死的な症例も報告されるため注意が必要です。

メトロニダゾールは安価かつ有効性の高い非常に重要な抗菌薬であり、特に寄生虫や渡航感染症ではなくてはならない存在です。副反応や薬剤相互作用を十分に理解し日常診療に生かしてください。

100本まで残り31本です。
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