英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.08.31,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(70本目)
今回は性感染症で生じた神経症状に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「The Great Imitator: Infectious 6th Nerve Palsy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。梅毒(Syphilis)は主に性交渉を介して感染する梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を原因とした性感染症であり、近年本邦において感染者が激増しています。15世紀末に突如としてあらわれ、抗菌薬が開発される以前の時代に猛威を奮いました。通説によると「コロンブスの探検隊がアメリカ大陸に上陸した際に、原住民女性との性交渉で現地の風土病に過ぎなかった梅毒に感染し、その後ヨーロッパに持ち帰ったことで世界的な流行を来した」とされています。
梅毒は全身に感染を引き起こし、病期によって多彩な症状を示すことから診断が難しい疾患です。Osler結節の報告者であり近代医学の父として名高いSir William Osler先生は、梅毒の示すその多彩な症状や身体所見から本症を「The Great Imitator(偽装の達人)」と評しました。また「He who knows syphilis knows medicine.(梅毒を知るもの医学を知る)」という梅毒診療の難しさを端的に表した金言を残されています。
さて今回Acceptされたのは若年男性が突然の外転神経麻痺を主訴に当院を受診、神経梅毒と診断された症例です。神経梅毒は梅毒のいずれの病期にも起こりえますが、通常の梅毒と同様に様々な症状を呈します。神経梅毒のpresentationとして視神経萎縮、内耳障害、脊髄癆、認知症などが代表的なものとして知られていますが、いずれも特異的な症状とは言えず他の疾患と見分けがつきにくいことからときに診断困難であり、発見・治療が遅れるケースがあとを絶ちません。
また一般的にHIV感染者は神経梅毒の罹患率が非HIV感染者に比べて2倍と高確率であるため、本症の患者ではHIV及びその他の性感染症の検索を行わなければなりません。
まず神経梅毒は無症候型、髄膜血管型、実質型に大きく分類されます。とくに無症候型は髄液異常を伴うだけであり、神経梅毒患者の10%程度を占めるとされています。今回の症例でも患者は外転神経麻痺の発症以前に特段の症状はありませんでした。性活動性の高い若年者における原因不明の神経症状では神経梅毒を鑑別に挙げる必要があるでしょう。
本症例が比較的早期に診断がついた要因の1つとして疫学情報を多くの同僚医師と把握していたことが挙げられます。COVID-19が猛威を振るい始めたころ、私の勤務する岡山県における本症の「人口100万人当たりの報告数」は東京都、大阪府に次いで第3位という大変不名誉な状態にありました。このような背景から保健所主導での勉強会が開催されるなどした結果、県下の医師の中で梅毒診療に対する意識が高まったことも早期発見の要因として考えられるでしょう。
本症もまた「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」という側面があり、さらに発見が遅れれば遅れるほど感染を拡大させうる「公衆衛生上大きな問題となる感染症」です。
原因不明の神経症状を呈する若年者の診療では本症を鑑別疾患として挙げることを忘れないようにしましょう。
100本まで残り30本です。
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