英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.12.25,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(48本目)
今回は皮膚科感染症及び院内感染に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Norwegian scabies」です。掲載雑誌は世界的に著明な米国の医療機関であるCleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 3.37)」です。
Norwegian scabiesは角化型疥癬の通称「ノルウェー疥癬」のことです。疥癬はヒゼンダニによって生じる皮膚感染症であり、激痒と表現される非常に強い痒みを特徴とします。一般的な疥癬(通常疥癬)は免疫力が正常な人にも感染が起き、病巣には数十匹程度の虫体が存在しますが、免疫力の低下した患者に起きる角化型疥癬(ノルウェー疥癬)では数百万を超える虫体と爆発的な感染力を有します。本症例では残念なことに、私と指導医の皮膚科Drが感染してしまいました。このような爆発的な感染力のため院内感染が起きる危険が非常に高く、Clinical Pictureでその性状を知ることが非常に有用な疾患の一つだと考えられます。
なぜノルウェー疥癬と呼ぶのかというと決してノルウェーの患者が多かったわけでなく、本症の報告者であるDaniel Cornelius Danielssen(M.leprae発見者の Armauer Hansenの義父)がノルウェー出身であったからです。なんと迷惑な話でしょう。当然ノルウェー出身者はこの呼び名をひどく嫌います。仮に私が発見してたとしたら「Japanese scabies」にでもなっていたのでしょうか、甚だ迷惑ですね。
治療法はクロタミトンやフェノトリン、硫黄製剤などの外用薬とイベルメクチンの内服です。
特にノルウェー疥癬では全身状態が悪化している患者が多く、イベルメクチンの早期内服が非常に重要となります。イベルメクチンはご存知の方も多いとは思いますが、2015年度のノーベル生理医学賞を受賞された大村 智先生によって合成されたマクロライド系の経口駆虫薬であり、中南米やアフリカで河川失明症を引き起こすオンコセルカ症、東南アジアで未だ流行している糞線虫症、そして本症に非常に効果的です。
なおノルウェー疥癬にステロイド軟膏は基本的に禁忌です。よくあるパターンとしては寝たきり全介助の高齢者に皮疹があらわれ「特に何も考えなく」ステロイド軟膏を処方し、増悪しているのに継続する、といったパターンがあります。本症例でも同様の経過があり、療養型の病院で「何の考えなく」ステロイド軟膏を長期間にわたって塗布され続けて増悪し、病院職員にも多数疥癬患者が出たというものでした。
本症の確定診断は虫体の確認ですが、疑わしい病歴として「周囲の疥癬患者」「ステロイド軟膏使用歴」などの聴取が必要です。経験者は語る…ではありませんがムチャクチャ痒いです。
仮に寝たきりで言葉も発せない高齢者がノルウェー疥癬に罹患していたとしたら「拷問」以外のなにものでもないと思われます。院内感染、周辺地域における公衆衛生上、本症は大きな問題となりうるため早期診断が非常に重要です。なおヒゼンダニ自体はヒトの皮膚を離れると室内環境で最大72時間程度しか生きることが出来ません。よって本症患者に触れた可能性のあるもののうち、洗浄可能なものに関しては温水での洗浄とドライクリーニングを実施し、洗浄が難しいものに関しては3日程度触れないことが求められます。早期診断と感染拡大予防に本症例を他山の石として有効活用いただけますと幸いです。
100本まで残り52本です。
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