英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。
New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
Posted by Hiroki Matsuura - 2018.06.09,Sat
Clinical Picture(Case Report)がAcceptされました(38本目)
今回は非常に珍しい細菌による敗血症のCase reportがAcceptされました。タイトルは「Sepsis & Leclercia adecarboxylata」です。
掲載雑誌は英国内科学会の発行する内科学会「Quarterly Journal of Medicine(IF 3.1)」です。本誌にはこれまで多数のClinical Pictureを投稿し掲載に至っておりますが、Case reportがAcceptされたのは今回が初めてです。
「Leclercia adecarboxylata」は1962年に発見され、Escherichia属のひとつとして分類されていましたが、近年の遺伝子研究により遺伝的な差異が大きいことから新属「Leclercia」に再分類された菌種になります。2018年現在同属に分類される細菌は本菌のみです。
さてこのような経緯のある本菌ですがヒトの臨床材料から検出されるCaseは非常に限定的であり、検索した限り2018年4月現在でわずか16報24例しかありません。菌血症のCaseになると10例程度です。本邦に限定すると自験例を含めて3例、菌血症に関しては本邦初の症例報告になります。
これほど珍しい菌種なのですが市販の自動細菌検査機器には同定可能な菌種として収載されているようです。一説には環境中の腸内細菌群の3%弱が本菌であったという報告もあります。
本菌種による菌血症は易感染性宿主で多く、また皮膚バリア機能の破綻が関係しており、戦傷を含む外傷や腹膜透析、経皮カテーテルや蜂窩織炎による症例が報告されています。
本菌の抗菌薬感受性は良好である場合がほとんどですが一部でESBL産生菌や多剤耐性菌が報告されており、特記すべきは養豚場での耐性菌発症例があることです。
近年耐性菌に対するアクションプランが策定され全世界的に抗菌薬適正使用の機運が盛り上がっています。しかし我々医師が不要な抗菌薬処方を減らすだけでは耐性菌の発生は止められません。どうしてもヒトに対する抗菌薬処方について取り上げられがちになりますが、アクションプランには「動物に対する抗菌薬使用」についても記載があります。
本邦を含め世界中で、畜産動物に対する抗菌薬使用がかなり酷い状況であることは以下を一瞥していただければ即座にご理解いただけるかと思います。古いデータになりますが2002年にヒトに使用された抗菌薬は509トン、一方動物に対しては994トンとヒトの2倍程度が使用されており、そのうち成長促進目的の抗菌薬添加飼料が168トン、農薬として371トンが使用されています。このような環境下では様々な細菌が抗菌薬曝露に伴い耐性化していくのは火を見るより明らかです。
本菌は確かに「珍しい」菌種ではありますが、「珍しい症例でした、報告終わりです」ではなんの意義もありません。この珍しい菌種でさえ「耐性化」が進んできており、畜産動物に対する抗菌薬使用への問題提起と継続的なモニタリングが重要であることを医療従事者に知らせるために本症例をまとめました。
耐性菌の発生予防は世界的な問題です。ひとりひとりの意識の変化で確実に変わります。まずは「とりあえずクラビット」「ねんのためメイアクト」「カゼだからセフジトレンピボキシル」をやめませんか。私はこの3年クラビットは一回も処方していません(研修医になってからは日本紅斑熱と他剤にアレルギーのある患者に数回処方したのみです)。
なお本症例は2018年5月末から6月にかけて開催されました日本感染症学会にてポスター発表させていただきました。「学会発表」で終わり、というのは少々もったいないと思います。発表したものをぜひぜひ「論文」として形にしましょう。
100本まで残り62本です。
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