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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by - 2025.04.25,Fri
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Posted by Hiroki Matsuura - 2024.10.31,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(85本目)
今回は気道緊急に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「A woman with double-tongue」です。掲載誌はItalian Society of Internal Medicineの機関誌「Internal and Emergency Medicine(IF 3.2)」になります。

咽頭痛を主訴に来院される方の中には、見逃してはならない気道緊急を起こしうる代表的な疾患が5つあります。それらをまとめて「Five Killer Sore Throat」と記憶された方も多いでしょう(急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、Lemierre症候群、口腔底蜂窩織炎)。このうち口腔底蜂窩織炎Ludwig's anginaとも呼ばれ、歯周炎や齲歯、外傷によって口腔底に感染が生じ、疎性結合組織から感染が急激に拡大して気道緊急を来たす場合があります。本症の症状としては発熱頚部痛、嚥下困難、開口障害などがありますが、特に開口障害は診察の際に評価しづらく見逃しやすいので注意しましょう。

さて今回のClinical Pictureで示した重要な身体所見は「Double tongue sign(二枚舌徴候)」になります。これは口腔底が感染により隆起して、まるで「舌」のようにみえることから名付けられました(Watari T, Tokuda Y. Double tongue signs in a case of submandibular space infection. BMJ Case Rep. 2018 Jun 29;2018:bcr2018225559.)。Ludwig's angina自体が少ないですし、そもそも気道緊急で焦っていて写真を撮影出来ていないこともあり、この身体所見の有用性については未だに定まってはいませんが個人的には非常に有用な身体所見だと考えています。

気道緊急を来たす咽頭疾患は対応を誤ると死に直結します。特に耳鼻科の緊急対応が困難な医療機関では「早期診断→転院搬送」が何より重要になります。「Double tongue sign」は視診の良いところが詰まっていますので明日からの診療に是非活かしていただきたいですね。

100本まで残り15本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2024.07.29,Mon
Clinical PictureがAcceptされました(84本目)
少し珍しい甲状腺疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Hypothyroidism with atypical CT findings」です。掲載誌はItalian Society of Internal Medicineの機関誌「Internal and Emergency Medicine(IF 3.2)」になります。

今回は偶発的に指摘された甲状腺機能低下症の精査中に異所性甲状腺腫の一種である「舌甲状腺(Lingual thyroid)」を診断したケースになります。単純CTにも関わらず舌根部に比較的高輝度な境界明瞭で均一、充実性の大きな腫瘤が不気味に存在している非常に特徴的なClinical Pictureです。一度見たら忘れないでしょう。舌甲状腺は胎生期における甲状腺の下降障害が原因で起きるとされ、異所性甲状腺腫のうち最も頻度が高いとされています。舌甲状腺の臨床的な意義はおよそ70%の症例で甲状腺機能低下症を伴うとされており、甲状腺機能低下症の鑑別として重要です。また大多数の症例では無症状であるものの、まれに甲状腺腫の腫大により嚥下困難や気道狭窄を引き起こす場合があります。そのような症例においては甲状腺ホルモン補充療法を行うと反応性に腫脹が軽減するため、バイタルサインや呼吸状態に異常が認められなければ内服薬による保存的加療が選択されます。頻度は10-30万人に1人と決して高いものではありませんが、CTで偶発的にうつった場合に患者を適切な内分泌診療に繋げるためにも是非とも覚えてほしいClinical Pictureです。

100本まで残り16本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2024.07.19,Fri
Clinical PictureがAcceptされました(83本目)
今回は緊急性の高い循環器疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Monitor-related changes consistent with paradoxical pulse」です。掲載誌は米国で2番目に古い歴史を誇る内科系雑誌「American Journal of the Medical Sciences(IF 2.3)」になります。

今回の症例はショック状態で当院に搬送された方で、当初ショックの原因が判然としませんでしたがモニターの特徴的な波形から心タンポナーデの診断に至ったものです。さてタイトルにある奇脈(Paradoxical pulse)は心タンポナーデの際に認められる代表的な身体所見になります。国家試験では「奇脈≒心タンポナーデ」くらいの勢いで認識されていますが、奇脈は緊張性気胸、上大静脈症候群、気管支喘息、COPDの急性増悪などでも起こりえます。この奇脈ですが名称の認知度自体は高いものの機序や定義、正確な測定方法について詳細に説明できる方は意外といません。

奇脈の定義は「正常呼吸の吸気時における収縮期血圧が10 mmHg以上低下すること」になります。一般的に正常でも吸気時に収縮期血圧は低下しますが、その変動が背景疾患によって大きくなっているのです。また奇脈の測定方法は意外と煩雑であり「水銀血圧計を用いた触診法」を繰り返すことで判断します。このように奇脈は知名度が高いものの対象疾患(特に心タンポナーデ)が珍しいことや測定方法の煩雑さなどと併せて実用的な身体所見…とは言えない現状がありました。

今回AcceptされたClinical Pictureを投稿したきっかけは「パルスオキシメーターの波形を丁寧に観察すれば奇脈がわかるのではないか」と考えついたからです。近年パルスオキシメーターの発展は著しく、脈波を非常に正確に反映できるようになりました。吸気時の収縮期血圧の変動がパルスオキシメーターの数値変動に連動する様子が一目でわかります。このClinical Pictureの画期的なポイントは、これまで主観的な身体診察でしかなかった奇脈を、動的な波形に注目することで客観的に理解が可能な形に落とし込んだことにあります。使えるシチュエーションは限られますが、モニターの数値だけではなく、波形の動的な変化にも着目していただくきっかけになればと思います。

100本まで残り17本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.12.14,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(82本目)
今回は食道裂孔ヘルニアに関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Unusual cause of recurrent bradycardia and syncopal symptoms」です。掲載誌はAsian Pacific Association of Gastroenterology (APAGE)の機関誌「Journal of Gastroenterology and Hepatology(IF 4.369)」になります。

今回の症例は、長期間にわたって食思不振があり、高齢者うつとして医療保護入院となっていた患者のケースで非常に教訓的です。患者は高齢者うつを背景にした「拒食」を理由に近医精神科に入院されていましたが食事の度に失神を繰り返すため「高齢に伴う神経調節性失神」として経過観察されていました。しかし搬送当日は普段と異なり状態が改善せず低血圧が遷延していたことから当院に紹介のうえ搬送となったのです。搬送後には状態は改善していたのですが「神経調節性失神」として片付けるにはあまりに腑に落ちないため詳細に問診を進めました。すると患者は「ご飯が食べたい。おなかがすいた。」と言うのです。「拒食」という状況では全くありませんでした。食事を再開すると、やはり血圧が下がり気分不良や眼前暗黒感を訴えるのですが、そもそも患者はこの気分不良に恐怖感を感じて食事を食べたがらなかったのでした。

器質的な異常があるのでは、と考えて画像を見返すと胸部Xpでは巨大な食道裂孔ヘルニアが映り込んでいました。さらにCTでは心臓が食道裂孔ヘルニアによって圧排されており、矢状断で確認すると下大静脈が殆どうつっていません(掲載後に画像を追加します)。失神の原因は巨大な食道裂孔ヘルニアの存在に伴い、食事によって消化管内部の圧力が増加することで下大静脈及び心臓が圧排されて物理的に血流の遮断が起きたから、と考えられました。すぐに外科紹介し食道裂孔ヘルニアの修復術を実施したところ、術後患者は徐脈や失神症状を起こすことが全くなくなり状態が劇的に改善したのです。食事も食べられるようになり自宅に無事帰ることができました。


そもそも食道裂孔ヘルニアは腹腔内に収まっているはずの胃の一部が横隔膜から胸腔側に出てきてしまう状態を指します。食道裂孔ヘルニアは非常に一般的な消化管疾患であり、GERDなどを起こさなければ大きな問題になることは殆どありません。噴門部や胃の一部が胸腔側に出ている型を「混合型」と呼ぶのですが、この類型ではおよそ50%が逆流性食道炎を伴います。さらに重症例では今回のケースのように心臓などを圧排して非常に重篤な合併症を生じることがあります。

(出典:Ann Agric Environ Med. 2021;28(1):20-26)

食道裂孔ヘルニアを診たときに我々は「高齢だから仕方がない」「肥満だから仕方がない」と一瞥すらしないことが多々あるでしょう。私にも思い当たる節があります。しかし、ときにそんな思い込みが牙を剥いて我々に襲い掛かってくることがあるのです。

言うまでもないことですが「精神科疾患」と判断された患者の中に器質的な異常が見逃されているケースは数多く存在します。今回の症例は非常に幸運な経過をたどりましたが「精神科疾患」と思い込んで思考を放棄したくなるときこそ「立ち止まる勇気」を持ちたいですね。

なお本症例は2023年2月18-19日に栃木県で開催された第26回日本病院総合診療医学会で発表した症例になります。少々時間はかかってしまいましたが、学会発表したものが無事にAcceptされたのでひとまず安心しました。

100本まで残り18本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.11.04,Sat
Clinical PictureがAcceptされました(81本目)
今回は悪性腫瘍と身体所見に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「An elderly man with chronic poor appetite」です。掲載誌は掲載誌は英国の救急医による専門協会「The Royal College of Emergency Medicine」の機関誌「Emergency Medicine JournalIF 3.814)」になります。

今回Acceptされたのは長期間にわたる食思不振のため当院の救急外来を受診された高齢男性の臍部に認められたSister Mary Joseph's nodule(シスターメアリージョセフの結節)のClinical Pictureです。Sister Mary Joseph’s noduleはアメリカのミネソタ州ロチェスターのセントメアリー病院(現在のMayo Clinic)でWilliam Mayoの助手として勤務していた主任看護師 Sister Mary Josephが臍部転移を来した胃癌の予後が悪いことに気付き、その業績を讃えたHamilton Baileyによって1949年以後に名付けられました。一般的に腹膜からの直接的な播種が90%以上を占めるとされており、その多くを胃癌卵巣癌が占めます。よってSister Mary Joseph’s noduleは原発巣の発見に繋がりうる非常に重要な皮膚・腹部所見と言えるでしょう。

本症例の男性患者はこれまで殆ど医療機関の受診のない方で、診察に当たっていた初期研修医と身体所見を取っている中でSister Mary Joseph's noduleを見付けました。画像検査に行く前にSister Mary Joseph’s noduleの可能性が高いことを彼に伝えましたが、あまりピンと来ていないようでした。彼は半信半疑で患者をCTに連れていき、暫くして非常に驚いた顔をして戻ってきたのがとても印象的でしたね。

100本まで残り19本です。
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