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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.12.14,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(82本目)
今回は食道裂孔ヘルニアに関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Unusual cause of recurrent bradycardia and syncopal symptoms」です。掲載誌はAsian Pacific Association of Gastroenterology (APAGE)の機関誌「Journal of Gastroenterology and Hepatology(IF 4.369)」になります。

今回の症例は、長期間にわたって食思不振があり、高齢者うつとして医療保護入院となっていた患者のケースで非常に教訓的です。患者は高齢者うつを背景にした「拒食」を理由に近医精神科に入院されていましたが食事の度に失神を繰り返すため「高齢に伴う神経調節性失神」として経過観察されていました。しかし搬送当日は普段と異なり状態が改善せず低血圧が遷延していたことから当院に紹介のうえ搬送となったのです。搬送後には状態は改善していたのですが「神経調節性失神」として片付けるにはあまりに腑に落ちないため詳細に問診を進めました。すると患者は「ご飯が食べたい。おなかがすいた。」と言うのです。「拒食」という状況では全くありませんでした。食事を再開すると、やはり血圧が下がり気分不良や眼前暗黒感を訴えるのですが、そもそも患者はこの気分不良に恐怖感を感じて食事を食べたがらなかったのでした。

器質的な異常があるのでは、と考えて画像を見返すと胸部Xpでは巨大な食道裂孔ヘルニアが映り込んでいました。さらにCTでは心臓が食道裂孔ヘルニアによって圧排されており、矢状断で確認すると下大静脈が殆どうつっていません(掲載後に画像を追加します)。失神の原因は巨大な食道裂孔ヘルニアの存在に伴い、食事によって消化管内部の圧力が増加することで下大静脈及び心臓が圧排されて物理的に血流の遮断が起きたから、と考えられました。すぐに外科紹介し食道裂孔ヘルニアの修復術を実施したところ、術後患者は徐脈や失神症状を起こすことが全くなくなり状態が劇的に改善したのです。食事も食べられるようになり自宅に無事帰ることができました。


そもそも食道裂孔ヘルニアは腹腔内に収まっているはずの胃の一部が横隔膜から胸腔側に出てきてしまう状態を指します。食道裂孔ヘルニアは非常に一般的な消化管疾患であり、GERDなどを起こさなければ大きな問題になることは殆どありません。噴門部や胃の一部が胸腔側に出ている型を「混合型」と呼ぶのですが、この類型ではおよそ50%が逆流性食道炎を伴います。さらに重症例では今回のケースのように心臓などを圧排して非常に重篤な合併症を生じることがあります。

(出典:Ann Agric Environ Med. 2021;28(1):20-26)

食道裂孔ヘルニアを診たときに我々は「高齢だから仕方がない」「肥満だから仕方がない」と一瞥すらしないことが多々あるでしょう。私にも思い当たる節があります。しかし、ときにそんな思い込みが牙を剥いて我々に襲い掛かってくることがあるのです。

言うまでもないことですが「精神科疾患」と判断された患者の中に器質的な異常が見逃されているケースは数多く存在します。今回の症例は非常に幸運な経過をたどりましたが「精神科疾患」と思い込んで思考を放棄したくなるときこそ「立ち止まる勇気」を持ちたいですね。

なお本症例は2023年2月18-19日に栃木県で開催された第26回日本病院総合診療医学会で発表した症例になります。少々時間はかかってしまいましたが、学会発表したものが無事にAcceptされたのでひとまず安心しました。

100本まで残り18本です。
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