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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.09.04,Sat
Clinical Pictureが掲載されました(47)
先日アクセプト「Leriche syndrome」がCleveland Clinic Journal of Medicine の2021年9月号に掲載されています。

Leriche症候群は終末大動脈に生じる中枢型の閉塞性動脈硬化症であり、動脈硬化を主な要因とし腹部大動脈下端から総腸骨動脈にかけて慢性の大動脈閉塞症を引き起こす疾患です。

本症の古典的な三徴は①間欠性跛行 ②下肢脈拍消失 ③勃起不全です。しかしながら本症では慢性的に発達した側副血行路により下肢や骨盤腔内臓器の血流が維持されており、派手な画像所見に比べると症状は軽微であったり無症候性であることも珍しくありません。そのため本症の診断には身体所見が診断の大きな手掛かりになりえます。間欠性跛行を示す疾患はほかにASOや腰部脊柱管狭窄症などが挙がりますが、Leriche症候群を鑑別疾患として忘れないようにしましょう。両下肢の動脈触知を丁寧に行い、脈拍だけではなく「左右差」を評価することも必要です。

また前述のように本症の原因は動脈硬化に起因するものが多数を占め、冠動脈疾患や腎機能障害を併う場合があることから併存疾患の検索が重要です。特に虚血性心疾患の合併が目立つことから、心機能や冠動脈の評価を行いましょう。

足趾の血流障害が強い、あるいは間欠性跛行の増悪が著しい症例に対しては外科的にバイパス術を行います。また内服療法としてはシロスタゾールアスピリンなどの抗血小板薬が推奨されています。

以下Journal記事のリンクです。
Cleveland Clinic Journal of Medicine
The Clinical Picture
Leriche syndrome

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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.08.31,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(70本目)
今回は性感染症で生じた神経症状に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「The Great Imitator: Infectious 6th Nerve Palsy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

梅毒(Syphilis)は主に性交渉を介して感染する梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を原因とした性感染症であり、近年本邦において感染者が激増しています。15世紀末に突如としてあらわれ、抗菌薬が開発される以前の時代に猛威を奮いました。通説によると「コロンブスの探検隊がアメリカ大陸に上陸した際に、原住民女性との性交渉で現地の風土病に過ぎなかった梅毒に感染し、その後ヨーロッパに持ち帰ったことで世界的な流行を来した」とされています。

梅毒は全身に感染を引き起こし、病期によって多彩な症状を示すことから診断が難しい疾患です。Osler結節の報告者であり近代医学の父として名高いSir William Osler先生は、梅毒の示すその多彩な症状や身体所見から本症を「The Great Imitator(偽装の達人)」と評しました。また「He who knows syphilis knows medicine.(梅毒を知るもの医学を知る)」という梅毒診療の難しさを端的に表した金言を残されています。

さて今回Acceptされたのは若年男性が突然の外転神経麻痺を主訴に当院を受診、神経梅毒と診断された症例です。神経梅毒は梅毒のいずれの病期にも起こりえますが、通常の梅毒と同様に様々な症状を呈します。神経梅毒のpresentationとして視神経萎縮、内耳障害、脊髄癆、認知症などが代表的なものとして知られていますが、いずれも特異的な症状とは言えず他の疾患と見分けがつきにくいことからときに診断困難であり、発見・治療が遅れるケースがあとを絶ちません。

また一般的にHIV感染者は神経梅毒の罹患率が非HIV感染者に比べて2倍と高確率であるため、本症の患者ではHIV及びその他の性感染症の検索を行わなければなりません。

まず神経梅毒は無症候型、髄膜血管型、実質型に大きく分類されます。とくに無症候型は髄液異常を伴うだけであり、神経梅毒患者の10%程度を占めるとされています。今回の症例でも患者は外転神経麻痺の発症以前に特段の症状はありませんでした。性活動性の高い若年者における原因不明の神経症状では神経梅毒を鑑別に挙げる必要があるでしょう

本症例が比較的早期に診断がついた要因の1つとして疫学情報を多くの同僚医師と把握していたことが挙げられます。COVID-19が猛威を振るい始めたころ、私の勤務する岡山県における本症の「人口100万人当たりの報告数」は東京都、大阪府に次いで第3位という大変不名誉な状態にありました。このような背景から保健所主導での勉強会が開催されるなどした結果、県下の医師の中で梅毒診療に対する意識が高まったことも早期発見の要因として考えられるでしょう。

本症もまた「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」という側面があり、さらに発見が遅れれば遅れるほど感染を拡大させうる「公衆衛生上大きな問題となる感染症」です。

原因不明の神経症状を呈する若年者の診療では本症を鑑別疾患として挙げることを忘れないようにしましょう。

100本まで残り30本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.08.01,Sun
Clinical Picture(Case report)が掲載されました(46)
先日アクセプトされました「Japanese spotted fever and rickettsial pneumonia」がQuarterly Journal of Medicineの2021年4月号に掲載されています(もう8月なんですけどね)。

「Japanese spotted fever(日本紅斑熱)」は1984年に発見された紅斑熱群リケッチア感染症です。近年感染者数が急激に増加しており公衆衛生上大きな脅威となるダニ媒介疾患として知られています(令和2年は過去最多の報告数でした)。一般的に紅斑熱群リケッチア感染症は紅斑、痂皮、肝障害を3徴としますが、血管内皮に感染し増殖するという特性から、全身のあらゆる臓器で臓器障害を引き起こします。症状の多くは非特異的であり、発熱や全身倦怠感、筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈するため、紅斑などを見落としたり(症例によっては紅斑が目立たない場合もあります)、流行地域で鑑別疾患から本症を落としてしまった場合には想起が難しく、重症化し致命的な経過をたどる危険性があります。

前述のように紅斑熱群リケッチア感染症は血管内皮に感染する特性から、全身のあらゆる臓器に感染を起こし臓器障害を来たしますが、肺も例外ではありません。日本紅斑熱の類縁疾患であるロッキー山紅斑熱Rickettsia rickettsi)、地中海紅斑熱Rickettsia conorii)、ツツガムシ病Orientia tsutsugamushi)などでは呼吸器症状が出現することは決して稀ではなく、CTや胸部レントゲン写真が様々な英文誌に登場しており「リケッチア肺炎」として報告されています。

紅斑熱群リケッチア感染症は「知らないと想起できない」「早期発見が患者の生命予後を左右する」「患者毎に症状の多様性が大きい」、など様々な点で臨床医泣かせの疾患です。特に本症例のような一見「普通の肺炎」に見えてしまう症例は非常に稀ではありますが、落とし穴になる可能性が高いため、通常の抗菌薬治療に反応が乏しい症例や原因不明の血小板減少を伴う症例では紅斑熱群リケッチア感染症を鑑別疾患として考える必要があるでしょう。

以下Journal記事のリンクです。
Quarterly Journal of Medicine
Japanese spotted fever and rickettsial pneumonia


Posted by Hiroki Matsuura - 2021.07.22,Thu
Clinical PictureがAcceptされました(69本目)
今回は抗菌薬の副反応に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Metronidazole induced Encephalopathy」です。掲載誌は世界的に著明な米国の医療機関、Cleveland Clinicが発行する内科系雑誌「Cleveland Clinic Journal of Medicine(IF 1.522)」です。

メトロニダゾールは主に嫌気性菌に対する抗菌薬として世界中で広く使用されています。嫌気性菌以外にもジアルジア症、トリコモナス症、アメーバ赤痢など様々な感染症に対して有効です。日常臨床では偽膜性腸炎(CD腸炎)や、Helicobacter Pyloriの除菌療法で使用することが多いのではないでしょうか。

メトロニダゾールを使用するうえで幾つか注意すべき点があります。

まずは薬剤相互作用があり、特にワーファリンの濃度を上昇させることが知られています。
また本剤使用中にアルコールを使用すると「ジスルフィラム様作用」を引き起こすため注意が必要です。「ジスルフィラム様作用」はアルコールの代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(acetaldehyde dehydrogenase:ALDH)の活性阻害により血中アセトアルデヒド濃度が上昇することで「悪酔い」を生じる現象ですから、本剤内服中はアルコールの摂取をしないように気を付けなければなりません。

前置きは長くなりましたが、今回ご紹介するClinical Pictureはさらにもう一つの注意点に関係します。メトロニダゾールを高用量でかつ長期間使用すると「脳症」を引き起こす危険があるのです。本症の発症機序は十分に解明されていませんが仮説として「メトロニダゾールがニューロンのRNAと選択的に結合しすることで、タンパク合成を抑制し軸索変性を生じる」あるいは「メトロニダゾールによってGABA変性やフリーラジカル発生が惹起され神経組織の損傷に至る」ことが原因と考えられています。今回の症例はCD腸炎に対してメトロニダゾールで治療を繰り返されていた高齢者が突然の意識障害と食思不振を呈したため、MRI検査を実施され本症と診断されたものになります。

メトロニダゾール脳症の症状は非特異的であり嘔気や嘔吐、回転性めまい、歩行障害、構音障害、傾眠、昏睡など多彩な神経症状を示します。画像検査では特にMRI(T2やFLAIR)で、小脳歯状核、中脳蓋部、脳梁膨大部に特徴的な左右対称の高吸収域が認められるため診断の一助となります。今回はこの典型的なMRI画像がAcceptされました。よってメトロニダゾールを使用している患者で非特異的な症状や神経症状が出現した場合には本症を鑑別の1つとして想起しMRI撮影を考慮しましょう。

本症の治療は薬剤の中止であり、基本的に予後は良好で薬剤中止後4-7日程度で回復するとされていますが、ときに不可逆的、致死的な症例も報告されるため注意が必要です。

メトロニダゾールは安価かつ有効性の高い非常に重要な抗菌薬であり、特に寄生虫や渡航感染症ではなくてはならない存在です。副反応や薬剤相互作用を十分に理解し日常診療に生かしてください。

100本まで残り31本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2021.07.03,Sat
撮っておきClinical Picture!(Cadetto.jp)更新のお知らせ(23)
日経メディカル姉妹誌で若手医師と医学生のためのサイト「Cadetto.jp」にて、2019年1月より連載中の「撮っておきClinical Picture!」ですが、2021年7月2日付で新しい記事が掲載されました。

タイトルは「『赤い耳』から鑑別できるあの疾患」です。
耳が赤い、という主訴から皆さんはどんな疾患を思い浮かべますか?

以下、記事のリンクです。
撮っておきClinical Picture!
『赤い耳』から鑑別できるあの疾患
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