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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.09.10,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(79本目)
流石に30日間で6本もAcceptされたのは初めての経験です。このまま100本まで突っ走ります。
今回は原因不明の腹痛と後腹膜出血に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Multiple pancreaticoduodenal artery aneurysms and retroperitoneal bleeding in a patient with celiac artery compression syndrome」です。掲載誌はItalian Society of Internal Medicineの機関誌「Internal and Emergency Medicine(IF 4.6)」になります。本誌は今回初めてのAcceptです。

今回の症例は原因不明の腹痛発作を繰り返していた男性が突然の激烈な腹痛により当院に搬送されたケースです。来院時はショック状態でありCTで後腹膜出血が認められ緊急IVRで止血、何とか救命できました。

問題は後腹膜出血の原因です。造影CTでは膵アーケードに隆々と動脈瘤が認められました。この「膵アーケードの多発動脈瘤」と慢性的な腹痛発作というのが今回の診断に至ったキーワードです。実際に私が患者さんを診たのはショック状態でERに搬送された患者がIVR室に移動する直前でした。現場にいた後期研修医から「後腹膜出血です」と伝えられ、さらに「膵アーケードに動脈瘤が多発しています」と言われたことでピンと来ました。造影CTは撮影されているのにもかかわらず、評価されていない断面があったのです。ここまでの経過で「もしかして...アレか?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

放射線技師に依頼して矢状断を再構築してもらい、大動脈-腹腔動脈起始部を確認したところ著明な狭窄機転が存在していました。狭窄部以降の動脈径の拡大膵アーケードの動脈瘤が認められたことから正中弓状靭帯圧迫症候群(Celiac Artery Compression Syndrome:CACS)と診断しました。

そもそも正中弓状靭帯とはなにか?正中弓状靭帯は左横隔膜と右横隔膜を椎体前面で結ぶ非常に堅強な構造物です。これが何らかの原因で伸長、肥厚した場合に腹腔動脈を圧排し本症を引き起こします。腹腔動脈の起始部が正中弓状靭帯に圧迫されることで、腹腔動脈の血流低下から非特異的な腹部症状を起こしたり、今回のケースのように血流に乱流が生じて異常な応力がかかり膵アーケードに多数の動脈瘤を形成することがあるのです。形成された動脈瘤が運悪く破裂すると、今回のような重篤な経過を辿ることになります(以前のGastroenterologyに掲載されたCACSの紹介記事はこちら)。ちなみに本症例の患者はIVRで全身状態が落ち着いた後に待機的に正中弓状靭帯の切離術が実施されました。

CACSの認知度はDrの間でも決して高いとは言えません。当院では放射線技師などと協力し積極的に矢状断の作成をお願いしているため、医師の間でも徐々に認知度が高まってきています。破裂し重篤な経過を辿る方が減るように今後も本症の認知度が上がるような活動をしていきたいと考えています。最後に明日からの診療に使えるTake Home Messageとして「原因不明の後腹膜出血に遭遇した時にはCACSが原因の可能性があるため、矢状断を必ず確認する」ということを強調したいと思います。

100本まで残り21本です。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.29,Tue
Clinical PictureがAcceptされました(78本目)
今回は誤嚥性肺炎と整形外科疾患に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「An unusual cause of recurrent aspiration pneumonia」です。掲載誌は英国の救急医による専門協会「The Royal College of Emergency Medicine」の機関誌「Emergency Medicine Journal(IF 3.814)」になります。

今回Acceptされた症例は増悪する嚥下困難と繰り返す誤嚥性肺炎を主訴に来院された高齢男性のケースです。誤嚥性肺炎というと高齢者には避けがたい問題であり、ERで高齢者を診療していると「高齢者の肺炎≒誤嚥性肺炎」のような「思考停止」症例にしばしば遭遇します。そのため誤嚥性肺炎の背景に隠れている様々な疾患が見落とされていることが往々にしてあります。誤嚥の原因としては加齢神経疾患による嚥下機能低下が多くを占めますが、ときに身体の構造的な問題から誤嚥性肺炎を繰り返す方がいるので注意が必要です。

誤嚥性肺炎の方はしばしば誤嚥している自覚がない場合が多いのですが、今回の患者さんは年齢の割には認知機能は比較的保たれており、医師に対して明確に「のどに物が詰まる」「飲み込みづらい」と訴えてきました。

以前撮影されたCTでは脊椎の広い範囲で骨増殖架橋が認められ「びまん性骨増殖症(Diffuse Idiopathic Skeletal Hyperostosis: DISH)」と考えられました。しかし頚椎より上については画像がなかったことからCTやレントゲンを撮影したところ、喉頭蓋とほぼ同じ高さで骨棘が喉頭や食道を圧排していました。また骨化により頚椎の可動性が低下しており誤嚥を来たしやすい状況に陥っていたのです。嚥下機能検査をしたところ、やはり喉頭蓋の動きが著しく制限されておりDISHによる骨棘が誤嚥の主要因と考えられました。

DISHは近年報告数が増えており、2型糖尿病などとの関連が示唆されていますが未だに原因は不明です。ちなみに同様に靭帯部の骨化を来たす後縦靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症に比べると、DISHは単独で神経障害を来たすことは稀です。しかし本症例のように骨化や骨増殖の位置が悪いと、患者のQOLを大きく下げることに繋がります。DISH全体からすると嚥下困難を来たす症例は全体の1%程度であり、決して多くはありませんが嚥下困難の鑑別疾患として重要でしょう。

今回の症例で最も強調したいのは「高齢者の肺炎≒誤嚥性肺炎」のような「思考停止」は危険であるということです。誤嚥性肺炎を繰り返す方で、疑わしい病歴(今回の場合であればDISHを示唆する画像所見)が併存する場合には注意をしましょう。

100本まで残り22本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.15,Tue
英文誌の特徴(European Journal of Internal Medicine 編)
European Journal of Internal Medicine のClinical Pictureにおける特徴をご紹介します。気を付けていただきたいのは、本記事で紹介する内容はあくまでも私見だということです。

1.歴史
EJIMはEuropean Federation of Internal Medicine (EFIM)の公式学会誌です。

2.内容
EJIMは年12回(1回/月)発行される英文誌で、大規模な臨床研究からClinical Pictureまで多数の論文が掲載されています。2023年のIFは8.0です。

本誌のなかでClinical Pictureを扱うセクションは「Internal Medicine Flashcards」です。本セクションでは毎号コンスタントに2-3本Clinical Pictureが掲載されています。個人的な印象ですが過去の掲載例を確認すると、他の総合内科系雑誌に比べてRare Diseaseが取り上げられる傾向が強いと感じています。特に疫学の違いが大きい症例は掲載されやすい印象があります。またクイズ形式になっていますのでMimic caseやDiagnostic Errorを起こしやすい症例が好まれるのではないかと思います。

3.Clinical Pictureの分量や注意点
Author informationによると

1. まず簡潔な病歴を記載(175 words以下)し、Discussionを含んだCase description(225 words以下)から成るクイズ形式のClinical Pictureになります。※前半が短い場合は後半と併せて400 words以下であれば差し戻されません。
2. 画像は「1枚以内(複数のPanelが含まれるものは問題ありません)」でFigure Legendが必要
3. Referenceは「3本以下
4. Authorは「3名以下


4.査読
Clinical Pictureの査読としては早ければ14日から28日程度で最初のResponseがあります。査読についてですが、これまでAcceptされたケースではそこまで厳しい意見は飛んで来ませんでした。Kick or Acceptといった感じで「査読期間が少し長いQJM」のような印象です。

5. Accept後
Accept後、5営業日でArticle in pressとして掲載されました。修正や誤植があった場合にも迅速に対応してくれます。

6.その他
事務的な対応などは取り立てて変わったところはありません。質問事項に対しても丁寧な返信をいただけました。また以前よりもずっとResponseが良くなりました。近年Impact Factorが着実に上昇している内科系雑誌であり、個人的にもお気に入りのJournalです。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.13,Sun
Clinical PictureがAcceptされました(77本目)
今までの不振が嘘のように今月はAcceptラッシュです。
今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するClinical PictureがAcceptされました。かなり珍しい症例ですが、初診外来でSnap Diagnosisし、迅速に治療につなげることが出来た印象深いケースになります。タイトルは「Young woman with Red eyes and Shock」です。掲載誌は欧州内科学会が発行する内科系雑誌で近年IFが急上昇し注目度の高まる「European Journal of Internal Medicine(IF 8.0)」です。

今回の症例ですが、生来健康であった若年女性が1週間遷延する感冒症状(発熱、全身倦怠感、嘔気、嘔吐、水様性下痢)のため救急外来を受診されました。身体所見では眼球結膜の充血顔面の紅斑全身性の浮腫があり、血圧低下頻呼吸から敗血症を疑わせる非常にSickな全身状態でした。また採血検査では著明な炎症反応高値(CRP、フェリチン)がありました。当初はToxic shock syndrome(TSS)などを疑いましたが近医で既に抗菌薬が処方されており、さらに頚部リンパ節腫脹などと併せて鑑別疾患を考えると「川崎病」が脳裏をよぎりました

またちょうど第7波の真っただ中でしたので、あらためて経過を確認すると患者はおよそ6週間前にCOVID-19に罹患していました。これらの病歴を併せて、COVID-19罹患後に発症する「成人多系統炎症症候群:Multisystem-Inflammatory Syndrome in Adult(MIS-A)」と診断し、集中治療室でヴェノグロブリンステロイド大量投与を行いました。

MIS-AはCOVID-19に感染してから数週間後(2-6週間後)に生じる川崎病様の重篤な合併症です。21歳以上の成人に起きるものとそれ以下の年齢で起きるものでMIS-AとMIS-C(Child)に区別されており、米国疾病管理予防センター(CDC)から診断基準が示されています(日経メディカルの特集記事に分かりやすい和訳があったので紹介します)

※MIS-Aの診断基準(引用記事より一部改変し紹介)※
21歳以上に起こった入院が必要な重症疾患
② 入院中または過去12週間以内に行われた、核酸検査、抗原検査、抗体検査によって、現在または過去のSARS-CoV-2感染が確認されている
③ 肺以外の1つ以上の臓器系に重度の機能障害が認められる(低血圧またはショック心機能障害、動脈または静脈の血栓症塞栓症急性肝障害
④ 重度の炎症を示す検査結果(例えばCRP、フェリチン、Dダイマー、IL-6などの上昇
重症呼吸器疾患は認められない(炎症と臓器機能不全が、単に組織の低酸素症に起因する可能性がある患者を除外する)
(出典:日経メディカル

今回の症例では太字で示した通り、診断基準をしっかり満たしました。
MIS-Aは重症患者が多く、半数でショックを呈し、25%で人工呼吸管理が必要になり、7%が死亡に至ったという報告があります。幸い本症例では持続性の循環不全や多臓器不全には至らず患者は速やかに回復に至りました。

今後もCOVID-19の流行は繰り返され、医師であればCOVID-19診療から逃れることは出来ません。MIS-Aは珍しい合併症とはいえ、今後誰しもが遭遇しえます。早期発見と早期治療が重要な疾患になりますので「川崎病」様の重篤な患者を診た際にはMIS-Aを鑑別疾患の一つとして想起しましょう。

100本まで残り23本です。
Posted by Hiroki Matsuura - 2023.08.02,Wed
Clinical PictureがAcceptされました(76本目)
連日のAcceptになります。今回は原因不明の大量腹水貯留に関するClinical PictureがAcceptされました。タイトルは「Urinary Ascites: The great mimic」です。掲載誌はAsian Pacific Association of Gastroenterology (APAGE)の機関誌「Journal of Gastroenterology and Hepatology(IF 4.369)」です。本誌は初めてのAcceptになりました。

今回の症例は重度の統合失調症でほとんど疎通の取れない方が突然の発熱腹部膨満のため当院に搬送されたケースになります。患者はこれまで腎機能障害を指摘されたことはなく、統合失調症以外に目立った既往歴はありませんでした。直近の血液検査ではCrが4台まで急激に上昇しており、ER受診時には発熱と併せて敗血症による臓器障害を疑われていました。しかしCTでは腹腔内をすべて満たす大量の腹水が存在していましたが原因は指摘しえず、さらに敗血症を起こしている割には全身状態は良好でCr以外大きな血液検査異常もなかったため、患者は違和感に溢れた病歴を呈していました。そのため本症例のCr上昇は腎機能に起因するものではなく、腹水に起因するもの(膀胱が何らかの原因で破裂し腹腔内に漏れ出た尿が腹膜で再吸収された結果、血清Crが上昇した)ではないかと考えました。その目でCTを見返すと膀胱の上部に腹腔内と交通を認める部位があり、予想通り膀胱破裂に伴う腹水尿と確定診断しました。その後緊急手術で膀胱壁の修復が行われたことにより、患者は無事回復に向かいました(文章では理解しづらいのですが、Clinical Pictureでは一目で理解可能です。後日画像をこちらにも紹介します)。

膀胱破裂は様々な原因で起きえます。その中でも外傷出産医療行為に伴うものが多いとされています。例えば医原性のものでは術中の損傷だけでなく、放射線照射後に膀胱壁の菲薄化が生じピンホールの瘻孔から尿が腹腔内に繰り返し漏れ出てきていたため原因の特定に非常に難渋したという症例報告があります。

それを踏まえて今回のClinical Pictureでは「大量腹水の原因として膀胱破裂に伴う腹水尿を鑑別に挙げなければならない」ということを強調しています。膀胱破裂はたしかに泌尿器科の疾患になりますが、腹水貯留の患者を日常診療で多数目にする消化器内科のDrにこそ知ってほしいという意味合いで、このClinical Pictureは消化器内科系の雑誌に投稿しました。繰り返しになりますが皆さんも原因不明の大量腹水を診たときには「膀胱破裂」を鑑別の一つとして忘れないようにしましょう。

100本まで残り24本です。
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