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英文誌への投稿を始めたばかりの後期研修医のブログです。 New England Journal of Medicine の「Images in clinical medicine」への掲載を目標に頑張ります。
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Posted by Hiroki Matsuura - 2021.01.24,Sun
1. 震える舌
医師に勧めたい小説を紹介します。今回ご紹介するのは破傷風に罹患した少女の闘病とその家族を描く「震える舌」です。これは作者・三木卓の実娘が破傷風に罹患した経験をもとに書かれました。何気ない日常生活を過ごす幸せな一家は突然の病魔の襲来に翻弄され追い詰められていきます。

破傷風」は破傷風菌によって引き起こされる感染症で、本邦では年間100件前後の報告があり、感染症法では5類感染症に指定されています。破傷風菌は嫌気性であり、芽胞を形成して広く土壌に存在します。この破傷風菌が創傷を介して体内に入ると、神経毒である「テタノスパスミン」を産生します。「テタノスパスミン」は末梢神経終末において抑制性神経伝達を減少させる働きをもち末梢運動神経、脳神経、交感神経を過活動状態に陥らせます。このようにして破傷風の特徴的な神経症状である強直性痙攣が生じるのです。

破傷風は予防接種の普及により症例数が大きく減少しました。しかしながら1968年以前の出生者ではこれらの予防接種は実施されていないため、発症のリスクが高いと考えられます。

破傷風の診断が難しいのは特異的な検査がほとんど存在しないことが挙げられます。また衛生状態の良い日本では症例数が限定され診療経験のある医師が少ないことも一因です。私が経験した症例でもERに搬送された患者を診て「破傷風」を想起した救急医は一人もいませんでした。さらに項部硬直にばかりに注目し、意識障害がないのに病歴聴取も行われず「髄膜炎」と決めつけられて腰椎穿刺が行われる寸前でした(初期研修先や現勤務先の症例ではありません)。作品の中でも病歴聴取と身体所見を疎かにする研修医の「ゴミ箱診断」により診断が遅れる場面が描かれています。

本作品は1980年に実写映画化もされており、子役の鬼気迫る演技が話題となり「ホラー映画よりも怖い作品」として知られています。破傷風の経過を見るにはうってつけの教材です。ぜひともご覧ください。


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