医師に勧めたい小説を紹介します。今回ご紹介するのは破傷風に罹患した少女の闘病とその家族を描く「震える舌」です。これは作者・三木卓の実娘が破傷風に罹患した経験をもとに書かれました。何気ない日常生活を過ごす幸せな一家は突然の病魔の襲来に翻弄され追い詰められていきます。
「破傷風」は破傷風菌によって引き起こされる感染症で、本邦では年間100件前後の報告があり、感染症法では5類感染症に指定されています。破傷風菌は嫌気性であり、芽胞を形成して広く土壌に存在します。この破傷風菌が創傷を介して体内に入ると、神経毒である「テタノスパスミン」を産生します。「テタノスパスミン」は末梢神経終末において抑制性神経伝達を減少させる働きをもち末梢運動神経、脳神経、交感神経を過活動状態に陥らせます。このようにして破傷風の特徴的な神経症状である強直性痙攣が生じるのです。
破傷風は予防接種の普及により症例数が大きく減少しました。しかしながら1968年以前の出生者ではこれらの予防接種は実施されていないため、発症のリスクが高いと考えられます。
破傷風の診断が難しいのは特異的な検査がほとんど存在しないことが挙げられます。また衛生状態の良い日本では症例数が限定され診療経験のある医師が少ないことも一因です。私が経験した症例でもERに搬送された患者を診て「破傷風」を想起した救急医は一人もいませんでした。さらに項部硬直にばかりに注目し、意識障害がないのに病歴聴取も行われず「髄膜炎」と決めつけられて腰椎穿刺が行われる寸前でした(初期研修先や現勤務先の症例ではありません)。作品の中でも病歴聴取と身体所見を疎かにする研修医の「ゴミ箱診断」により診断が遅れる場面が描かれています。
本作品は1980年に実写映画化もされており、子役の鬼気迫る演技が話題となり「ホラー映画よりも怖い作品」として知られています。破傷風の経過を見るにはうってつけの教材です。ぜひともご覧ください。
|
価格:1,155円 |
|
価格:2,750円 |
同意書書式に次いで多くいただくご質問は「投稿する雑誌の選定はどうしているか」というものです。私が「厳格な基準をもって投稿している」と思い込んでいる方もおられるようですが実際には全くそんなことはありません。投稿を始めた時点で決めていたルールは以下の2点のみです。
1. 掲載料が有料のOpen Access誌には投稿しない
2. 必ずImpact Factorが付いている
Open Access誌は掲載料が非常に高額である場合が多いため、私のようなしがない
一勤務医にとってOpen Access Feeは金銭的な負担が大きすぎます。
何より後々「たくさんお金を払って載せてもらっているんでしょ?」と言われたくないというのが
理由になります(全てのOpen Access誌を否定するわけではありません)。またハゲタカジャーナル対策という側面があります(ハゲタカジャーナルとは)。
AJMやPMJ、Lancetの姉妹誌(Lancet Infectious Disease、Lancet Gastroenterologyなど)ではOpen Access Feeを支払わないと、Journalの購読会員以外はアクセスできません。ただしCMAJなどは一定の期間が過ぎれば無料でアクセスが可能になります。
Clinical Pictureは極めて実際的な教育的なツールであり、多くの臨床医が目にすることで
医療全体のPracticeを向上させる効果があると考えていますから
「Impact Factorが付き、誰にでもアクセス可能である」という条件は投稿するJournalを選定する上で個人的には非常に重要な要素です。
今回Acceptされた症例は、岡山県北部在住の高齢女性が突然の高熱と意識障害を呈して複数の医療機関を受診、状態悪化後に当院に搬送されMRIの特徴的な画像所見と髄液PCRから日本脳炎と確定診断されたケースです。
「日本脳炎 (Japanese Encephalitis)」を引き起こす日本脳炎ウイルスはデングウイルスやウエストナイルウイルスと同じフラビウイルス属に分類されます。本邦における感染源はブタであり、ウイルスを持つブタを吸血した蚊(コガタアカイエカ)がヒトを刺すことによって感染します。他のアジア諸国に比べて衛生状態が非常に良好な日本では本症の発症者数は年間数人から10名ほどで推移していますが、WHOによると東南アジアを中心に年間約70000人前後の感染者が発生し、20000人前後が死亡していると推計されています。
日本脳炎ウイルスに感染した場合、発症するのは0.1%から1%程度であり大多数の症例は無症候性に経過します。しかしながらいったん発症すると30%が死亡し、生存者の半数で深刻な後遺症が残るとされています。集学的な治療が発達した現代においても日本脳炎の全治率は約30%程度であり、この30年間でほとんど変化はありません。本症に対する特異的な治療法は開発されておらず対症療法が中心になるため何よりも予防が重要となります。
潜伏期間は6-16日間で、頭痛や悪心、嘔吐、高熱、急激な意識障害、項部硬直、筋強直、振戦、不随意運動を呈します。本症例でもこれらの典型的な症状が出現していました。しかし日本脳炎は前述のように発症数が非常限られており、診療経験のあるDrもほとんどいないことも影響してか、当院に搬送されるまで複数の医療機関を経由したものの全く鑑別疾患として考えられていませんでした。「日本」と冠された疾患ではありますが「日本からは忘れさられつつある疾患」という意味を込めてタイトルを付けました。
ちなみにほぼ同時期に県内の全く別の地域から同様の症状を呈する高齢男性が搬送され、本症と確定診断しています。もしかしたら「日本脳炎」は見逃されているだけで実際はもっと多いのかもしれません。
本症のMRI画像所見はT2強調画像で視床や脳幹、基底核を中心とする対称的な高信号域を示します。CTではほとんど異常は認められませんが、上記のような所見が比較的早期からあらわれるためMRIが有用です。類似する画像はヘルペス脳炎や抗NMDA受容体脳炎などですが、予防接種歴のない高齢者や東南アジアからの渡航者では本症を鑑別に挙げる必要があるでしょう。
前述のように日本脳炎の予防で最も重要なのは言うまでもなく「予防接種」です。現在使用されているワクチンは不活化製剤になりますが、2010年以前はマウス脳由来ワクチンが用いられていました。このマウス脳由来ワクチン接種と因果関係が否定できないADEM(急性散在性脳脊髄炎)の症例が報告されたことで、2005年から2009年まで厚労省から「定期予防接種における日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨差し控え」が行われました。そのため1996年生まれから2007年生まれの方は日本脳炎の予防接種を受けていない可能性があります。
またコガタアカイエカの存在しない北海道ではなんと2016年まで定期接種が実施されていませんでした。屯田兵やゴールデンカムイの時代ならいざ知らず、交通手段の発達した現代において生涯を道内のみで過ごす道民がどれくらいいるでしょうか。はっきりいって行政側の怠慢としか思えません。北海道出身者が身近におられる方はぜひ、日本脳炎ワクチン接種歴があるか確認いただくようにお願いします。
なお本症は岡山県にて1924年(大正13年)に死者が443名を数える大規模な流行が起こりました。この流行をきっかけに研究が大きく前進し、三田村篤四郎(後の東京帝国大学病理学教授)を中心とする研究班によって本症はコガタアカイエカによる節足動物媒介性感染症と明らかにされました。岡山県は本症のランドマーク的な場所、といっても過言ではなさそうですし、そもそも流行地域であったことあらためて意識させられました。
100本まで残り35本です。
日経メディカル姉妹誌で若手医師と医学生のためのサイト「Cadetto.jp」にて、2019年1月より連載中の「撮っておきClinical Picture!」ですが、2020年12月25日付で新しい記事が掲載されました。
今回のタイトルは「若年女性で好発するあの疾患に有用な超音波所見」です。
若年女性の遷延する発熱はしばしば不定愁訴として見過ごされがちになります。
本症は周辺症状を問診で丁寧に確認しながら、日常生活動作のちょっとした違和感に気付くと
確定診断にグッと近付きます。
「Killian-Jamieson憩室」は比較的珍しい食道憩室であり、知名度の低さからZenker憩室と誤認されている場合がほとんどです。そもそもKillian-Jamieson憩室は輪状咽頭筋と食道縦走筋間隙(Laimer三角部)から圧出する仮性憩室で、輪状咽頭筋から外側前方に飛び出すため甲状腺腫瘍と間違われやすいという特徴があります。
(出典:Ali Zakaria, Mohammed Barawi. Endoscopic treatment of Killian-Jamieson diverticulum using submucosal tunneling diverticulotomy technique. VideoGIE. 2020; 5(11): 525-526.)
特に甲状腺超音波検査では食物残渣などにより内部が高エコーに見える場合があり、腫瘍と誤認されて不必要な穿刺や外科手術に至ったという症例が過去に報告されています。
甲状腺腫瘍との超音波検査上の鑑別点は、嚥下で内部が変化することです。動的な変化および食道との連続性を観察することが重要であり、甲状腺超音波検査を実施するDrは注意すべき食道憩室かもしれません。
臨床上大きな問題になることは多くありませんが、しばしば遷延する咳嗽、頸部痛の原因になることがあり、症状が強い場合には外科的切除を実施します。本症例では頸部痛があるものの、症状は自制内であることから外来にて経過観察中です。
Powered by "Samurai Factory"
